Takepuのブログ

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釣魚島上陸は選挙運動

2012-08-16 14:00:11 | 時事
15日、尖閣諸島に泳いで上陸し、沖縄県警と11管に逮捕された香港の保釣団体の成員のなかに、前香港区議員の曽健成(56)がいる。民主党の武闘派、というか行動派で、もともと労働者だったが、1989年の天安門事件で政治に目覚め、返還前から香港で釣魚島防衛問題のデモでは先頭に立って、香港の民衆からは「阿牛」と親しみを込めて呼ばれ、結構な人気者だった。2011年の区議会選挙で落選し、調べてみると、来月9日投開票の香港立法会選挙の普通選挙枠で、新界西地区から立候補していた。所属政党は「社会民主連線」。2006年に創設された、民主派の中でももっとも急進的な団体だという。


96年9月、万年落選議員で保釣活動家の陳毓祥(デビッド・チャン)は、船を仕立てて、泳いで尖閣諸島上陸を企て、船から海中に下りるさいにロープに足が絡まり、甲板に頭を強く打ち付け死亡した。このときは香港返還直前で、返還前後の過渡的な議会である臨時立法会の議席に滑り込むべく、「愛国」を全面に出してデモンストレーションしたとの見方ができる。

曽前区議は、万年落選議員ではないが、同じような意図だったのではないか。立法会は現在は職能別代表と直接民選が混じっている。今回は定数が60から70に増え、うち5議席は区議枠からの直接選挙、5議席は直接選挙枠となる。次回2016年は直接民選になる可能性もある。特に、今年3月に選出された香港特区のトップ、行政長官の選挙は次回2017年は直接民選になると言われている。この選挙のやり方など政治体制改革を話し合うのもこの立法会だ。9月の立法会選挙は候補者がひしめき合っており、激戦になると予想されている。曽前区議がこの選挙での当選に狙いを定めて、釣魚島上陸行動で従来からファンの多かった香港の庶民レベルの興味と関心を引こうとしていたとみるのは、間違いないと思う。

他方、日本当局に身柄拘束されたとしても、中国当局は日本に譲歩しないとの確信もあった。8月上旬から、中国共産党最高幹部らが河北省の避暑地、北載河に大挙集まり、非公式な臨時会議を開く、いわゆる「北載河会議」が始まった。今秋に開かれる予定の中国共産党第18期大会(十八大)で、共産党のトップ9と言われる最高意志決定機関、中央政治局常務委員会のメンバーのうち、次期総書記と首相に内定している習近平、李克強以外の7人が交代するのが規定方針で、人事駆け引きが続いている。自分の影響力を残したい胡錦濤・総書記と、薄煕来・前重慶市党委書記失脚後に影響力が後退したと言われる江沢民・前総書記のグループが、それぞれ息のかかった部下をトップ9に入れようとしている。胡錦濤側の勢力が強ければ、2人減らしてトップ7に戻すとも言われている。香港英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト」のサイトによると、温家宝首相が地方視察を始めたという官製報道(15日新華社電。14、15日に浙江省杭州などを視察)が出たことから、北載河会議は先週で終了したのは確実、との見方を伝えている。

このような政治状況の中で、中国政府が日本に甘い顔を見せれば、保守派=江沢民グループから攻撃と批判をうけ、思い通りの人事構想が駄目になる可能性が高い。中国政府は、そのつもりはなくても、日本に強い態度を見せざるを得ない。ただ、日中国交正常化40周年の年に、両国関係が決定的に悪化するのを望まない、というのは日中とも考えている。そういうときの尖閣上陸は、中国当局=胡錦濤政権にとってもやっかいなはずだ。江沢民系の保守勢力があおった可能性が大だ。

単純に中国の政治勢力を一体と考えるのではなく、いくつもの権力構造がそれぞれの意図を持ってこの行動をあおり、また抑制していると考えるべきだろう。