わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

メトロに乗って

2007年12月21日 | 観劇記
2007年12月21日ソワレ(初日)  1階後方やや上手

音楽座公演「メトロに乗って」の初日を観劇してしました。
初日の緊張感が、劇場全体に張り詰めていました。

原作が浅田次郎氏の「地下鉄(メトロ)に乗って」です。映画にもなり、浅田氏の作品の中でもとても人気のある一作と言えます。
私は、電車で読書人間、ですので、メトロに乗りながら作品を読んでいました。
永田町と赤坂見附を繋ぐ通路は、もう何十年も通っていません。あそこでの乗り換えは、地下鉄通にとって、禁じ手、みたいなものですからね。
登場する駅や地下道の場面を思い出しながら、舞台を観劇するのも楽しみの一つです。

あらすじはカットします。
ほぼ、原作に沿っていますので、知りたい方は原作を読んでみて下さい。
ただ、最後がちょっと違うのですよね。
こういう展開もいいですね。
「忘れること」・・・本当に大切なことです。でも、まだ私も若いのか、忘れたくないことも・・・

と、私のことはさておき、感想です。

初日ですので、どうしても段取りだけ、になってしまうことは仕方のないことだと思います。だから、本気のプレビューをやって欲しいのです。ですから、何作か音楽座の舞台も、そして、多くのキャストの方も観ていますので、別の作品でのことも勘案しながら、感想を書きます。

音楽座の舞台は、原作があると原作に忠実に舞台化します。それは、とても簡単そうですが、非常に難しいことだと思います。文字で「10年経った」「日本人とアメリカ人」「上野から新宿に」とかは簡単です。でも、舞台で表現することは、視覚に9割ぐらい頼り、台詞で不足を補うことになりますから、普通よりははっきりと表現しないと伝わらないし、はっきりさせすぎると原作と違うと言われかねません。そして、感情表現も文字なら相当読者が想像してくれますが、舞台となると演技で見せなければなりません。ただ、ミュージカルの場合歌で表現できますから、かなりいいとは思いますが・・・裏を返せば、やはり歌が大切ということになると思います。

この舞台の前に観た舞台が「ライト・イン・ザ・ピアッツァ」でした。とにかく素晴らしい音楽で、音楽の力の大きさを感じる舞台でした。ですから、多分、次に観る舞台が何であっても、「ちょっとつまらない音楽」という感想になるとは思うのですが、この作品も脚本の素晴らしさに比べると、音楽がとても単調だと感じました。ただ、単調ということは歌い手の力で膨らませる可能性もあるのかと感じています。

そして、音楽座の舞台でいつも気になるのが、生演奏でありながら、音がとても機械的であることです。シンセサイザーの多用も、音楽の広がりがあるので楽しいのですが、やはり、歌と掛け合う場面では、もう少しアコースティックな音が中心になって欲しいと思うのです。ダンスの場面は今のままのダイナミックさでいいと思います。

少々辛口の感想になってきてしまったのには、勿論理由があります。
作品としては気に入りましたが、かなり残念だと思うことがあるのです。
それは、アムールを演じている吉田朋弘さんのことです。
とても華のあるステキな俳優さんだと思っています。音楽座も看板俳優として育てていかれるのだと感じています。
私も応援したいと思います。そう思うからこそ、厳しいことも言いたくなってしまうのです。まだ、若いですし、がんばって欲しいのです。
「泣かないで」の吉岡努役を拝見したときは、本当に素晴らしいと思いました。ですから、「アイラブ坊っちゃん」では成長を楽しみにしました。が、歌詞が聞き取れないのです。
でも、そのときは「不調」の日に当たったのかと思いました。
しかし本当に残念ですが、今回も歌詞が聞き取れないことが多かったのです。
よく「いい意味でストレート・プレーのようなミュージカル」と言いますが、歌が出てくるときの唐突さがない構成であり、なおかつ、歌い手が台詞と同じような息遣いで歌うことが出来ている場合に、私はこういう表現をして、ミュージカルの舞台を評価します。
ですから、歌詞が聞き取れないということは、台詞が分からないことになり、当然、作品の方向性がわからなくなってしまうわけです。観客にとってこれほどストレスがかかることはありません。音程をはずすとか以前の問題だと思います。
アムールは歌も多く、それが重要な場面なのです。自分の苦手な音域に入っても、歌詞だけはきちんと伝えられるようにがんばって欲しいと思います。

吉田さんの場合、苦手な音域になると、言葉の音がふわっと抜けてしまうのです。そこへ、シンセサイザーの音がぶつかると、なんとか抜ける前の短い音を私の耳で拾おうとしても、かき消されてしまうのです。
是非、オケ(というほどの編成ではないのですが)に引いてもらいたいと思います。

道に迷いそうになりながら、原作を知っているので、思い出しながら、また進むべき道にもどってはいました。

そして、野平先生役の勝部演之さんに惚れこんでしまいました。本当に、いいですね。舞台がとても落ち着きます。

みち子役の秋本みな子さんもお時の井出安寿さんも、原作のイメージにとても近く、ステキなのですが、オケの音に私の耳が惑わされているのか、とても金属的な歌声だと感じました。やや、ここから「歌です」という感じがしてしまうのです。そこは残念でした。

照明も、時代の感じを出すために、とても暗いのです。勿論、それは時代にはあっていると思います。が、心情を描く舞台の場合、演技や表情を見たいので、もう少しスポットライトを効果的に使って欲しいと思いました。

私は、小沼真次を演じていらっしゃる広田勇二さんを楽しみに観劇していたのです。が、何箇所か、ここで表情がかわっているだろう、というときに、広田さんが明るい場所にいないことがありました。長く観劇していると、大体どの位置からなら、肉眼で表情がわかるかはわかっています。今回座ったあたりなら、肉眼でも結構大丈夫なはずでした。が、暗いと難しいのです。
まあ、厳しく言えば、それでも分かるぐらい広田さんにはがんばって欲しいのですが・・・
でも、本当に歌声はいいです。台詞と変わらない息遣いで歌って下さるので、いっしょに気持ちが高揚します。
が、ちょっと辛口で語るとすれば、みち子への思いが最初のうちはよくわからないんですよね。原作の真次は本当につかみどころのない人間です。それは、自分が嫌う人間にこそ、自分が重なり合っていることを認められず、すべてから逃げ回っている人間だからだと思います。
でも、舞台でこのままだとあまりにも印象が薄くなってしまうのではないでしょうか?

初日に拝見した広田さんは、本当に原作から抜け出してきたみたいで、素晴らしかったのですが、舞台という凝縮された時間の中では、もう一歩キャラクターをはっきりさせた方がいいのではないかと思います。つかみどころのない人間のキャラクターをはっきりさせるのは至難の業だと思いますが、広田さんならきっと掴んでいらっしゃると思うのです。
広田さんは心(しん)からの舞台人なので、観客の反応によってすごく役を膨らませることが出来る方なのです。ですから、これからの変化が楽しみでもあります。
でも、初日から飛ばして欲しいときもありします。かなりわがままなファンの希望です。

今回は、舞台は素晴らしいと思ったのですが、個々には辛口なことを書いてしまいました。
それは、音楽座の舞台を4作品拝見して、楽しみが増えた分、欲張りにもなってきたからだと思います。
これからも、素晴らしい作品を作り、楽しい舞台で私たちファンを魅了し続けて欲しいと思います。