暇つぶし日記

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フェア・ゲーム  (2010);観た映画、Oct., '12

2012年10月27日 13時25分55秒 | 見る
フェア・ゲーム    (2010)
FAIR GAME

108分

監督:  ダグ・リーマン
原作:  ジョセフ・ウィルソン、 ヴァレリー・プレイム・ウィルソン
脚本:  ジェズ・バターワース、 ジョン=ヘンリー・バターワース
撮影:  ダグ・リーマン

出演:
ナオミ・ワッツ     ヴァレリー・プレイム
ショーン・ペン     ジョー・ウィルソン
サム・シェパード    サム・プレイム
デヴィッド・アンドリュース   ルイス・“スクーター”・リビー
ブルック・スミス    ダイアナ
ノア・エメリッヒ     ビル
ブルース・マッギル   ジム・パビット
マイケル・ケリー    ジャック
アダム・ルフェーヴル  カール・ローヴ
タイ・バーレル
ティム・グリフィン
ジェシカ・ヘクト
ハーレッド・ナバウィ
トム・マッカーシー
アシュリー・ガーラシモヴィッチ
クイン・ブロジー
ノーバート・レオ・バッツ

夫がイラク戦争開戦を巡るブッシュ政権の欺瞞を告発したばかりに、政権内部からCIAエージェントであることを暴露され命の危険にさらされる事態に直面した女性とその家族の孤高の戦いを描く実録ポリティカル・サスペンス。危険な任務に当たるスパイの情報が、自国の政府によって意図的に漏洩されるというアメリカ中を騒然とさせた前代未聞のスキャンダルの真相を、当事者であるヴァレリー・プレイムとジョセフ・ウィルソンの回顧録を基に忠実かつスリリングに再現していく。主演は「マルホランド・ドライブ」「ザ・バンク 堕ちた巨像」のナオミ・ワッツと「ミスティック・リバー」「ミルク」のショーン・ペン。監督は「ボーン・アイデンティティー」「Mr.&Mrs. スミス」のダグ・リーマン。

世界を震撼させた9.11同時多発テロ。アメリカのブッシュ政権は首謀者であるアルカイダへの報復を進める中で、その矛先をイラクへと向け始める。そして、イラクが核兵器の開発を行っているとの疑惑をもとに、CIAの女性諜報員ヴァレリー・プレイムがその証拠を固めに乗り出す。彼女の夫で元ニジェール大使のジョー・ウィルソンも、ウラン買い付けの真偽を確かめるべくアフリカで綿密な調査を実施。その結果として疑惑は事実無根との結論に達したと上司に報告したヴァレリー。ところがブッシュ政権は、彼女が否定したはずの疑惑を根拠としてイラクへの宣戦を布告してしまう。これに対しジョーは、新聞で事実を暴露して政権を批判するが、政権側もヴァレリーが諜報員であることの極秘情報をメディアにリークして報復。彼女ばかりか、各国に散らばる協力者たちにも命の危険が迫る事態となり、世間の激しいバッシングの中でついには家庭も崩壊の危機を迎えてしまうのだが…。

上記が映画データベースの記述である。  本作をオランダ民放テレビのゴールデンタイムに放映されたものをみた。 どんなストーリーかも知らず出ているのが先日観た「愛する人 (2009)」のワッツとこのところ見ていなかったペンの二人だったからだ。 テレビガイドの票は5つ星のうち3つだったから、特別なことはないけれどほかにすることもなく暇なら見るのにはいいかも知れない、という作品なのだ。 ワッツはともかくペンの出ているものは見てみようと思うからこれを選びどんな話なのか筋を追った。 

CIA捜査官の女と元アフリカ小国の大使だった今は自分のキャリアと知識でなんとかビジネスを保っている男の夫婦がその仕事をしているうちに自分たちの仕事、特に夫の調査結果が戦争の引き金を引く理由として歪曲されて使われる時それを糺そうとするとどうなるか、いかにして世界最強国の中枢、オーヴァルオフィスの捏造に異を唱え、それが誤っているとしてももう既に歴史の引き金が引かれたときに理由が正義にもとるからと一人で権力の横暴に対抗するとどうなるか、ということだろう。 それは世界中で見られる組織内告発者に対する不当な抑圧モデルと同じく、ことにCIAという情報操作最高機関の奥深く入った妻には、そこで組織内の上部権力の意にそむくとそれまでいくら家族同様の付き合いのあった上司、同僚たちが仕事に一定の理解を示していたとはいえすぐに踵を返して公務員の義務を楯に保身に走り、挙句は不当にでっち上げた理由をつけられて解雇されメディア操作で国賊にされる。  結果は政府対不当につまはじきされた個人、という巨人対アリの構図なのだ。 だれも首脳の意図が欺瞞に満ちたものであっても彼らが体現するアメリカには逆らえない、といった不正にどのように対するかという話であるようだ。 らしいというのは上記データベースからはこれは実話に基づいた作である、ということだけれど、どこかで「きれいすぎる」という感じがしないでもないからだ。 それが大筋で事実であったとしてもそれが原作となり映画化されたそのナラティブが稚拙だということなのだろうか。だからテレビガイドの評者が中庸のレッテルを貼り付けたのだろうか。 語り方が稚拙であれば事実も嘘臭くなる、というのは皮肉でありそれはまた恐ろしいことだ。

我々にこれに比較するものとして大統領の不正を暴きそれが辞任に追い込むもととなったウオーターゲート事件の顛末「大統領の陰謀(1976)」があるがそれと本作を歴史の中の重みとしては同様なものとして比べ、原作や映画を作たものが本作であるとなると何かが違うように思われる。 両方とも最高権力者のモラルを問うものであり、或る意味では大統領の盗聴問題より、本作の戦争を始める理由が虚偽である、というほうが多大な人の生死にかかわるものとしてより重大ともとれるのにどこかですっきりしないのだ。 

本作が事実に基づいた創作であるから当時の実際の映像が幾つもその都度挿入されるとそのときのことを思い出す。 自分達の周りには第二次湾岸戦争はその理由はどうであってもこれは石油資本をにぎるブッシュ親子と副大統領の都合が大きく作用している、と大局では理解していたから、アメリカによって作られたイラクの独裁者が自国民をいかに扱おうとも戦争の必要はないとみて、あの凍てつく1月か2月のアムステルダムを数万人の中に混じってデモ行進をしたのだったがその後の虐殺的なコンピューターゲームにもみえるようなテレビ画面でのライブ戦は圧倒的なもでのであり、情報メディア操作の鉄壁が自分達のまわりに張り巡らされているのを感じたものだ。 だから動機が虚偽であったことをしっていたにも関わらず英国を米国の犬として戦争に巻き込んだとして当時の首相であったトニー・ブレアがごく最近まで弾劾されていたことを我々は覚えている。 本作では歪曲された主人公のレポートと英国の情報筋がフセインが核爆弾を持っていたという虚偽の理由にされている。 同時、戦争まで何度にもわたる査察委員会派遣の結果が、様々に錯綜する情報の中で概ねではイラクには核爆弾をつくる能力がなかったにもかかわらず戦争となり、最後にはフセインを隠れ家の穴倉から引きずり出し自国民の弾劾裁判で絞首刑にしたのだった。 そこでは核爆弾のことは脇にやられ地域と自国民に対する虐殺、弾圧が弾劾される理由になっていたのではなかったか。 戦争に勝つ、結果よければ全てよし、ということなのだろう。 

フェア・ゲームというタイトルに象徴されているように何事も正しく公平に行われなければならない、ということなのだ。 このアメリカの戦争の経緯を最近ニュースになった世界的なアメリカ人自転車競技のチャンピオン、ランス・アームストロングの顛末と比べてみる。 ツール・ド・フランスで何度も栄冠に輝き鉄人として歴史に残る経歴を築いたもののいつもドーピングの疑惑が消えず、ついにアメリカFBIの捜査の結果、関係者がピストルを捜査官に見せられて次々に事実を明かすこととなりそれを明確に知らしメタ数百ページにもわたるレポートが発表されたあと、先日全ての賞、地位を剥奪、自転車競技界から永久追放となった顛末はまだ耳目に新しいが、アームストロング自身は政府高官に近く、スポーツだけでなく政治にも深く関わり、一介のスポーツドーピング検査機関では暴けない組織的な操作で、これも奇しくも第二湾岸戦争のころからのほぼ10年間を君臨してきたのだった。 そしてプロ自転車競技のトップ走者たちにドーピングをしていないものを捜すのが難しいような状況のなかでアームストロングは飛びぬけてそれが巧妙であり、そうして勝ち続けてきたそのモラルが今問われ、FBIの介入で真実が暴かれると本人はそれを一貫して否定しているもののそれでもそれが糺されたというのが最近のことだったのだ。 ここではフェア・ゲームのモラルは建前では守られたといえるだろうけれど100年ほど伝統のあるフランス自転車競技関係者、ジャーナリスト、通たちの意見では、考えられないような利権、金が絡むプロ競技であるからドーピングなしではこの競技は考えられないというような世界になってしまっており、だからそれがアマチュア競技になればなくなるかといえばその保証がまったくない、というような、モラルは現実にみるように保証されるということは現実的には難しいというようなうんざりする世界が見えてくる。 皮肉なことに本作のストーリーでは彼らの名誉が回復されたものの戦争はそれからも絶えず続き、2014年に米軍がアフガニスタンから完全撤退する、といってもそれも一部から疑問視されているのが現状だ。 

本作鑑賞後メモを記す気になったのはつい先週だっただろうか、大統領選のためのロム二ー、オバマ両候補のテレビ討論会が3回あり、1、3回目をみたのだが、ことに3回目に外交問題を論じたときに共和党の政策に釘を刺す意味でオバマ現大統領が共和党の戦争戦略ではチェイニー、ラムズフェルドの行いに戻すのか、と本作にもかかわる発言をしたことだ。 更に共和党戦略なのか中国に進出が難しくても経済投資圏としてラテンアメリカ諸国があるではないか、と発言したロム二ー候補の発言は今までこの地域が様々なCIAの活動地域であり、今もそれがつづけられている事実とも考え合わせても本作とも同様の、またヴァリエーションの一つとしてストーリーが紡ぎ出されかねない匂いがする。 民主党、共和党どちらが勝ってもアメリカの世界戦略は同じだというものがいるとしてそれには30%の同意をするものの、あと70%にはある種の望みが託されてもいいものと願う。それがなければ世界は暗いシニシズムに包まれてしまうからだ。

再び本作で感じた違和感を考えてみる。 それは不正により英雄となった一個人の地位が剥奪されたとしても不正がはびこる現実にたいしては圧倒的に正しいモラルをいうことの脱力感を知覚するからかもしれない。 それに本作はそれによって正義を回復しようとして成功した人間の話してあり、自分がそうなったらどう戦えるか、となると鑑にするのは溌剌とした英雄でもなく、むしろCIAの権力に従順な同僚たちで別段彼らに親和力はもたなくとも現実的妥協策としてかれらの耳打ちに従うのが80%ほどの確率であろうと感じるからなのかもしれない。 もっとも我々小市民にはそのような機会は一生に一度くるかどうか、というところなのだがそのときにどうするのかと考えると自分はとにかく武者震いを一度はするだろうというような気がする。

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