TSUNODAの経営・経済つれづれ草

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「ワーキングプア時代」を読む

2009-08-05 06:16:51 | 今週の一冊
 社会学者山田昌弘の「ワーキングプア時代」を読みました。



 この本の著者は、「パラサイト・シングル」や「希望格差社会」の時代を表すキーワードを生んだ社会学者です。この本では、日本で問題が顕在化している「ワーキングプア」について、その特徴を記載しています。

 日本でワーキングプアが問題にされているのは、真面目に働いているにもかかわらずぎりぎりの生活を強いられる人たちが多く出現しているからです。

 著者はなぜ、日本でワーキングプアが出現しているかを分析しています。結論から言えば、日本の社会保障などの制度が「働けない」ゆえのプア(貧困者)は存在しても、ワーキングプアは存在しないことを前提に設計、運営されているからです。

 戦後日本の社会保障・福祉制度の根幹は、人はフルタイムで真面目に働けば人並みの収入が得られ、そしてほとんどの人が「サラリーマンー主婦型」か「自営業型」のライフコースをたどることを前提に構築されていると著者は主張します。

 まず、「サラリーマンー主婦型」とは、男性は学校卒業と同時に企業に正社員として就職し、結婚して妻は主婦となり、子どもを設け、定年まで同じ企業に勤め、退職するものです。これは、終身雇用賃金を前提にしたモデルです。国民年金第3号被保険者の主婦はこのモデルの典型です。働いても扶養の範囲内で働き、家計を助けます。このモデルは、正社員で終身雇用が前提で、各種公的保険もこのモデルを基本に形成されています。

 しかし、終身雇用が崩壊し、非正規が全労働者の3分の1にも及ぶ状況では、終身雇用、正社員を前提にした社会保障制度は機能しないのが当然だと著者は主張します。

 「自営業型」は、かつての日本の典型的なモデルです。農家や小規模商店など、家業を一家全員で営む場合に対応するモデルです。男性は、親が経営する自営業の後継ぎとして家業に従事し、親の引退後は親を扶養しながら自営業主となり、育てた息子が後継ぎとして、嫁を迎え、働けなくなったら引退し、息子夫婦の世話になるというモデルです。このモデルの社会保障制度として、国民年金がありますが、その金額が低額なのは、自営業者は生涯現役で働くためです。

 しかし、このモデルも、農業、小規模商業者がその職業で生活ができない状況では、国民年金の額はあまりに少額すぎます。

 現在の戦後高度成長期を基軸に設計された社会保障・福祉制度では、今起きている「ワーキングプア」の出現と、ライフコースの不確実性に対応できていません。

 それではと、著者は、資力調査なしの現金給付システム(ミニマム・インカム)を提案しています。この制度の記述が少なく、適切なものか私には判断する力はありません。

 著者の現金給付システムの提案はさておき、「ワーキングプア」がなぜ出現し、なぜ支援ができないかについて、この本はするどく時代を分析していると私は思いました。