地元群馬銀行の「群馬経済研究所」で発行している月刊「群馬経済」に、バリューチェーンコア企業のことが書かれていました。
書いたのは群馬経済研究所の研究員でなく、㈱日本政策投資銀行の調査部の松本哲也氏です。このバリューチェーンコア企業という考え方は、なかなか日本の企業の生きる道を示唆していると思います。以下、その要約引用です。
バリューチェーンコア企業のサポートによる産業競争力強化
株式会社日本政策投資銀行 調査部 松本哲也
要約
高い技術力をベースに、取引構造の中で重要な役割を担い、特定の分野で高マーケットシェアを有する中堅中小企業、すなわち本稿で称している「バリューチェーンコア企業」は、日本の産業競争力を支えている存在の1つである。このような企業もしくはその可能性を秘めた企業をサポートしていくことが重要課題であるとの認識のもと、ここではバリューチェーンコア企業の抽出・分析に関する考え方や考察、指針を紹介・提言する。
1 日本の産業競争力を支えるバリューチェーンコア企業
日本には優れた中堅中小の製造業が多いとされている。その中でも部素材分野を中心に、独自の高い技術力を持ち、完成品メーカーを頂点とした多様な取引構造やサプライチェーンの中で、自社を代替するようなライバルがあまり見当たらない高シェア企業も数多く存在する。
このような企業は、技術や品質を研ぎ澄ましながら、新しい用途を開発したり、顧客のニーズに的確に対応するといった付加価値を生み出している。その活躍の場は国内に限らず、グローバルである場合も多い。まさに日本の産業競争力を支えている存在である。このような企業を“バリューチェーンコア企業”と呼ぶことにする。
バリューチェーンコア企業のコンセプト
取引構造やサプライチェーンの中で、重要な役割を担っている(代替が効きにくい等)
独自の高い技術力を有している
特定の分野で高いマーケットシェアを有する製品がある
日本の産業競争力強化が重点課題として認識される中、コスト競争では振興国と比べて分が悪いため、技術力や生産管理ノウハウといった日本の強みを生かした高付加価値化が1つの方向性となる。そのためには、製品や市場の開発といった横展開と、それに伴うサプライチェーンの強化といった両輪で考える必要がある。後者に関しては、サプライチェーンの中で付加価値を生み出す源泉となる企業、つまりバリューチェーンコア企業をサポートすることが最重要課題となる。
いわゆるグローバル・ニッチトップ企業とは、グローバルでの隙間市場で高いシェアを持つ中堅中小企業とされており、日本の中小企業活性化や産業集積力の確保に向けて、様々な調査研究が行われている。
本稿で掲げているバリューチェーンコア企業は、グローバル・ニッチトップ企業に比べ、サプライチェーンの中で付加価値を生み出す源泉としての重要性に着目したものであり、隙間市場といった小さな市場に限定していない点が大きな違いと言えよう。
2 バリューチェーンコア企業の抽出・分析手順
グローバル・ニッチトップ企業の特徴の中で、「非上場の独立系BtoB製造業で、海外取引あり」を基本条件とし、これに合致する企業を、帝国データバンクの企業間取引データ「SPECIA」(約450万社収録)を用いて抽出した。
そして、約450社に絞り込んだ。これら450社の平均売上高は135億円、平均従業員数314名、平均資本金3億2千万円であり、業種は約6割が加工組立系、残りが素材系となった。
3 バリューチェーンコア企業の抽出と分析の手順
①基本条件
非上場の独立系BtoB製造業で、海外取引がある(拠点が海外にある、輸出している) ↓
キーワードチェック、公表情報等の加味、データ整備状況などを考慮
↓
約450社 ・平均売上高135億円
・平均従業員数314名
・平均資本金3億2千万円
・加工組立系約6割、素材系4割
↓
○定量的に判断する要素
②取引構造上、重要な役割を担っている
EX)大企業や有力企業との取引が多い
大企業や有力企業から重要な取引先として認識されている
特定業界内での大企業との取引シェアが高い
取引構造を指標化し、その類似度を判断する(類似企業が少なければ高評価)
③高い技術力を有している
EX)保有特許数が30以上ある
当該技術分野での保有特許数シェアがトップもしくは上位
技術力に関する評判が高い
④定性評価
EX)特定の分野で高いマーケットシェアがある
各種受賞歴がある評判が良い
↓
上記②~④の総合評価スコア上位で、かつ財務評点が一定水準以上の企業
バリューチェーンコア企業
↑
ヒアリングによる実態面の補完
4 分析結果の概要
総合評価スコアが全体の上位3分の1となる0.3以上で、かつ企業評点が55点以上である企業をバリューチェーンコア企業と位置づけると、約100社が該当する。様々な業種、規模の企業があるものの、所在地は東名阪エリア、つまりバリューチェーンコア企業が多く存在している傾向にあった。
これら100社のバリューチェーンコア企業の特徴は以下のとおりである。
まず、確信して実行する力である。意思や戦略の内容の良し悪しではなく、それを考えて確信し、実行に移すといった企業風土がある。
2つ目は、製品ライフサイクルに応じた顧客ニーズ志向である。顧客にニーズを的確に把握し、きめ細かく対応しながら、必要な製品の開発を実現させている。
3つ目は、技術開発へのあくなき追求である。それは自社独自の技術を開発すること、それを様々な分野に応用すること、技術の特許化とブラックボックス化を棲み分けながら保全することなどである。
4つ目は、幅広い業種、多くの企業との取引である。これは経営上のリスク分散に役立っていけるのはもちろんだが、技術の幅や深さを広げ、全く新たな市場やニーズを発見する機会を積極的に求めている。
5 バリューチェーンの課題
①技術力をより一層研ぎ澄まし、新しい分野での応用範囲拡大にも備えること
②技術や技能を伝承していくための人材を確保・育成すること
③異業種との接点を持ち、情報交換をしあいながら市場機会を探ること
④海外の諸事情に関する情報を感度良く、タイムリーに収集すること
今回抽出したバリューチェーンコア企業のほとんどが中堅中小企業で、経営資源の制約もある。従って金融機関をはじめとした外部機関が、このような課題の解決に対し、目利き力を発揮させながら、積極的にサポートをしていくことが望まれる。
以上です。内容の濃いものではないでしょうか。