人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

深水黎一郎「ジークフリートの剣」を読む~ワーグナーに関する理解が深まる作品

2017年01月08日 08時03分42秒 | 日記

8日(日).わが家に来てから今日で831日目を迎え,ニューヨークのダウ平均株価が一時1万9999ドル63セントと2万ドルの大台に肉迫したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

          

            トランプ次期大統領がアメリカ・ファーストだから株価は上がるんだろうな

            小池東京都知事は都民ファースト,エレベーターはレディ ファースト ってか

 

  閑話休題  

 

深水黎一郎著「ジークフリートの剣」(講談社文庫)を読み終わりました 著者の深水黎一郎は1963年 山形県生まれ.慶応義塾大学文学部卒,同大学院後期博士課程単位取得退学(フランス文学専攻).2007年に「ウルチモ・トルッコ」で第36回メフィスト賞を受賞して作家デビューしました オペラを題材としたミステリーには他に「トスカの接吻  オペラ・ミステリオーザ」があります

 

          

 

世界的なテノール歌手・藤枝和行は,婚約者の遠山有希子に誘われ,よく当たると評判の霊感師に会いに行く.そこで老女から告げられたのは,和行は女によって恐れを知ることになり,有希子は幸せの絶頂で命を落とすというものだった その後,和行はバイロイト祝祭音楽祭で上演されるワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」のジークフリート役に大抜擢され,有希子も脇役として同じ舞台に立つことになる そんな矢先,有希子が乗っていた列車が事故に遭い,和行は婚約者の遺体と対面することになる 彼は火葬された有希子の遺骨の一部を譲り受け,身に付けて舞台に立つことを決意する.その後,和行はオペラの前夜祭で,国境なき医師団の萩原佳子という美しい女性に巡り会い 次第に魅かれ合うようになるが,彼女はただの女性ではなかった そんな折,和行は街頭でヴァイオリンを弾く神泉寺瞬一郎という芸術オタクのフリーターに出会い ワーグナーの楽劇について議論するようになる 瞬一郎はなぜ有希子が事故で死亡したのか推理する

「あとがき」に本人が書いている通り,「この小説は,ワーグナーの楽劇をライトモチーフとして,男性原理と女性原理の相克を描いた」ものであり,「作品の上演に関する資料的価値まで持たせようとした」ものであり,「ワーグナーの楽劇に関する自分なりの解釈を示そうとした」ものです 一つの作品に様々な要素を欲張って盛り込んだ作品です

著者はワーグナーとその作品について相当 深い知識を持っています その道の専門家レヴェルといっても過言ではありません 一例を挙げれば,ワーグナーの楽劇の上演における演出の歴史(ワーグナーの孫であるヴィーラント・ワーグナーから,弟のヴォルフガング・ワーグナーに受け継がれ,その後に現れたフランス人の演出家パトリス・シェローによって従来の「新バイロイト様式」が破壊され,その後イギリス人のピーター・ホールが演出し・・・・という大きな流れ)を詳細に記述しています 

また,和行と瞬一郎とのメールのやり取りを読んでいて なるほどと思った点も少なくありませんでした その一つは,和行が投げかけた次の質問です

「ワーグナーはキリスト教徒である.キリスト教は自殺を認めていないし,火葬もしないはず それなのに『指環』の最後の『神々の黄昏』のフィナーレで,ブリュンヒルデがジークフリートの遺体を焼いて,自らは焼身自殺するのは一体どうしてなのか

これに対する瞬一郎の回答は

「自殺の方は,モーゼの十戒の拡大解釈によるもの.モーゼの十戒の中に『汝殺すなかれ』というのがあるが,生命あるものすべては神の思し召しによってこの世に存在しているわけだから,自分を殺す行為は神の意志に反するという意味では,人殺しと同等の罪になるという考え方である 火葬の方は,キリスト教最大の教義の一つ,最後の審判に関するもの.いくら生前に善行を積もうとも,最後の審判の日に遺体がないか四散してしまっていると,復活が叶わなくなってしまう

「あの場面で,ブリュンヒルデにとって重要なのは,炎でヴァルハラを道ずれにすることではないと思う ブリュンヒルデにとっては,ジークフリートと自らの肉体が炎の中で無に帰し,元素に還ることこそが重要なのです.薪を高く格子状に組むのは,常に新鮮な酸素が供給されるようにして,肉体を完全に燃やし切るためでしょう つまりこの場面は,ワーグナーの考えとは無関係に,キリスト教に対するアンチテーゼとして読むことが可能なのです

これは著者の個人的な見解ですが,一考に値すると思います

この作品を読む楽しさは,ミステリーとして謎を解くのと同じくらいの比重で,ワーグナーの作品を理解するところにあります ワグネリアンはもちろんのこと,クラシックを愛する人に特にお薦めします

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