人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

東京交響楽団「名曲全集第95回公演」を聴く~大植英次の指揮スタイルは・・・・

2014年03月02日 07時10分17秒 | 日記

2日(日)。昨夕、ミューザ川崎で東京交響楽団の名曲全集第95回公演を聴きました プログラムは①バーンスタイン「”キャンディード”組曲」、②チャイコフスキー「幻想序曲”ロミオとジュリエット”」、③同「交響曲第5番ホ短調」。指揮は大植英次です

 

          

 

コンミスの大谷康子のもとチューニングが終わり、指揮者の登場です 例によって学ランのような、襟が高く裾の長い衣装を身に付け、胸ポケットには赤いチーフが覗いています。歩き方を含めて、ひとことで言うと”気障”を絵に描いたようなスタイルです

1曲目のバーンスタイン(ハーモン編)「キャンディード」は、ヴォルテール原作による同名の小説を題材に作られた全2幕からなるオペレッタです 物語は、楽天的な青年が男爵の娘クネゴンデに恋していることを男爵に見つかり、城を追い出され、世界放浪の旅に出るというものです バーンスタインのアシスタントを務めたチャーリー・ハーモンが、作曲者の没後、1998年に9曲から成る組曲に編曲しました

「ウエスト・サイド・ストーリー」まではいかないまでも、美しいメロディーに溢れた楽しい曲です 大植は短めのタクトを振りオケをコントロールしますが、右を向いたり左を見たり、ヴァイオリンを弾く真似をしたり、管楽器に指示を出したり、忙しいことこの上ない状況です これほど動きの激しい指揮者も珍しいのではないか・・・・・と思っていたら、途中、弦楽器を中心に陽気な音楽が奏でられるシーンでは、いきなり指揮台から降りて、コンミスの前を通り過ぎ第1ヴァイオリンの中ほどまで行って腕を組んで聴き入っています 再度、指揮台の戻り、タクトを振ります。これほどやりたい放題の指揮者もいないでしょう

演奏中、弦楽器の各首席奏者が指揮者の方を見上げてニヤリとするシーンが何度かありました 大植は何か仕掛けているに違いありません。P席から見れば指揮者の顔の表情や何かを呟いているのが分かるはずです

大植は桐朋学園で齋藤秀雄に師事し(ホントか)、タングルウッド音楽祭でバーンスタインと出会い、以後世界各地の公演旅行に同行、助手を務めました これが今の大植の指揮スタイルを決定づけているように思います。バーンスタインはユーモアとサービス精神に溢れ、人を喜ばせることで自分の喜びを見い出すようなところがありました 身体全体で音楽を表現する指揮者の第一人者と言っても良いでしょう 大植の指揮を見ていると、意識してバーンスタインのスタイルを真似ているように思われます。しかし、如何せん大植はバーンスタインではありません

演奏が終わると、おもむろに胸の内ポケットからバラの花を取り出して、コンミス・大谷康子には赤の、第2ヴァイオリン首席・服部亜矢子にはイエローの、ヴィオラ首席・西村真紀にはピンクのバラを手渡しました これもバーンスタインだったらやるであろうバーンスタイン・スタイルか?

大植は一旦舞台袖に引き上げ、再度登場しますが、彼の最初の仕事は、指揮台に散っていたバラの花びらの回収でした 何しろバラバラに落ちていたので若干難儀したようです

2曲目のチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」は”幻想序曲”ですが、曲を聴く限り、むしろ”劇的序曲”と呼んだ方が相応しいように思います この曲は「ロミオとジュリエット」の物語をそのまま音楽にしたような傑作です 慶大教授・許光俊氏が書いた「クラシックを聴け!完全版」(ポプラ文庫)では、「これだけ聴けば、クラシックは完全にわかる」代表的な曲としてチャイコフスキーのこの曲を取り上げています 「ロミオ~」のCDを紹介して、それを聴きながらこの本を読むと、いま流れている音楽が何を表しているのかが手に取るように分かります。クラシック音楽の入門書として、これほど分かり易く優れた本はないでしょう

 

          

 

休憩時間にロビーに出ると、当ブログ読者のNさんが現われました。スマートな体に黒のスーツが良く似合います Nさんは大植の指揮は初めてとのことで、「あの指揮者はいつも、あんな感じなんですか?」と尋ねるので、「そうです。前回、東京フィルを振った時もあんな感じでした。初めて見る人は驚くでしょうね というか、唖然とするでしょうね」と答えると 「そうですね」と、心底驚かれたようでした。

休憩後のチャイコフスキー「交響曲第5番ホ短調」の最大の特徴は、第1楽章冒頭の”運命”のテーマが各楽章に登場し、曲全体に統一感をもたらしていることです。テーマは最初は暗く、最後は堂々と響きます  大植の指揮棒は極めて短いので、ときに持っているのかいないのか判らなくなるほどです。腕の延長線上に指揮棒があるという印象です

大植は時にテンポを落とし、次の飛躍に備えたり、弱音と最強音の対比を狙ったり、かなり音楽を”作って”いるように見えました 最後の音が鳴り終り、一瞬のしじまのあと、会場一杯の拍手とブラボーが舞台を囲みます 大植はコンミスの大谷を大袈裟にハグします。大谷は、嬉しいような怖いような、リンダ困っちゃうな状態で、敵からヴァイオリンを守ります

指揮者も、生き残り競争の中にあると言えるでしょう 地味な指揮ぶりでは名前さえ覚えてもらえません。強烈な個性を持つ指揮者の方が圧倒的に有利です。特に若手や中堅どころは、よりステータスの高い国内外のオーケストラからオファーが来るよう、指揮の技術を磨くとともに個性のアピールも必要でしょう その点、大植英次という指揮者は「バーンスタインの弟子」を前面に打ち出し、気障に徹することを選んだように思われます

 

          

 

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