20日(金)。10月上旬にトッパンホールで開かれる「トッパンホール25周年記念スペシャルウィーク ~ フォーレ四重奏団とともに」のセット券(2種類)を取りました
1.室内楽セット券(3公演)は以下の通りです
①2日(木)19時=モーツアルト「ピアノ四重奏曲第2番 K.493」、同「弦楽五重奏曲 ト短調 K.516」、シューベルト「ピアノ五重奏曲 イ長調 ”鱒”」
②4日(土)18時=メンデルスゾーン「ピアノ四重奏曲第2番 ヘ短調 作品2」、ブラームス「ヴィオラ・ソナタ第2番 変ホ長調 作品120-2」、シューマン「ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44」
③7日(火)19時=シューベルト「弦楽三重奏曲第1番 変ロ長調 D.471」、同「アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821」、シェーンベルク「清められた夜 作品4」
2.歌曲セット券(2公演)は以下の通りです 演奏はソプラノ=アネッテ・ダッシュ、弦楽四重奏=フォーレ四重奏団。
①5日(日)18時=ブラームス「ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 作品60」、マーラーの歌曲集。
②8日(水)19時=カールマン「チャールダッシュの女王」より、コルンゴルト「死の都」より、ドビュッシー「月の光」ほか。
上記のうち10月4日(土)は15時から江東区で東京シティ・フィル「ティアラこうとう定期演奏会」があるので、終演後、地下鉄+徒歩でトッパンホールに向かうことになります 夕食を取る時間がない どころか、ギリギリ間に合うかどうかです
ということで、わが家に来てから今日で3811日目を迎え、トランプ米大統領は18日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長を「ばか(stupid)」と呼び、「私はFRBにいくべきかもしれない。FRBに自分自身を任命してもいいのだろうか。私は彼らよりもはるかに良い仕事をするだろう」と語り、改めて利下げを要求した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
トランプの根拠のない自信はどこからくるのか? 自分は世界の王様と本気で思ってんじゃね?
昨日、夕食に「豚の冷しゃぶ」「生野菜とモッツアレラチーズのサラダ」「キュウリとミニトマトの冷やし汁」を作りました 「豚の冷しゃぶ」は、いつもはゴマダレを上からかけて食べるのですが、今回はタレに付けて食べました
最近、私が夜にコンサートがある日は 自分の夕食は自分で作る と娘が言い出したので、助かっています
村上春樹著「街とその不確かな壁」(上巻・下巻)を読み終わりました 村上春樹は1949年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年「風の歌を聴け」(群像新人文学賞)でデビュー
「海辺のカフカ」「1Q84」「ねじまき鳥クロニクル」など著書多数。国内外の文学賞を多数受賞しているが、ノーベル文学賞の受賞は今のところない
17歳の夏の夕暮れ、”ぼく”は16歳の”きみ”から高さ8メートルの「壁」に囲まれた「街」の話を聞く ”きみ”が説明するには、今ここに存在するのは自分の”影”に過ぎず、本当の彼女はその「壁」に囲まれた「街」の中にいるという
”きみ”(の影)はその後まもなく死に、”ぼく”は”きみ”から聞いた話を頼りに、切り離された自分の”影”と別れ「街」に入る
そこで”ぼく”は本のない図書館に収められた「古い夢」を調べる「夢読み」の仕事に就くことになる
”ぼく”は図書館の司書として働いている本当の”きみ”に出会い、次第に親しくなっていくが、お互いに”影”を失っているため、どうしても心を通わせることができないことに気が付く
やがて「古い夢」を開放することに成功し、その底知れない悲しみを知った”ぼく”は、”影”を取り戻して「街」を出ることを決心し、壁の外の現実世界に回帰する(以上第1部)
「高い壁に囲まれた街」の記憶を残したまま、”私”は現実世界で40代になっている 影も付いている。脳裏に焼き付いている街や勤めていた図書館での様子のイメージを持ち続けたまま生きることに限界を感じた”私”は、長年勤務した書籍取次会社を早期退職する
”私”はツテを辿って福島県の雪深い町にある図書館に勤め始める。図書館ではスカートを履く元館長の子易(こやす)氏、司書の添田さん、コーヒーショップの女性店員、図書館に通うイエローサブマリンのヨットパーカー着る少年らと出会う
実は子易氏はすでに死んでいる幽霊で、”私”と添田さんにしか見えない。”私”は彼から生きる上でのアドヴァイスを受ける
イエローサブマリンの少年は他人の誕生日の曜日を瞬時に言い当てることができるサヴァン症候群で、「『街』は疫病を防ぐために築かれた」と説明し、「街」を地図に再現して驚かせる
そしてある日、突然失踪する
(以上第2部)。
”街”に残っていた”私”は「影」のないイエローサブマリンの少年に出会い、図書館での「夢読み」の仕事を託すことにする ”私”と少年は一体化し、それによって”私”は「街」から現世へ帰還し「影」を持つ
一方、少年は「壁」の中の「街」に残り「夢読み」の仕事を続ける
(以上第3部)
村上春樹の小説特有の”現世とあちら側の世界を行き来する”「パラレル・ワールド」の物語ですね
村上春樹の小説と言えば、クラシックやジャズが出てくるという特徴があります クラシックに関して言えば、「海辺のカフカ」におけるシューベルト「ピアノ・ソナタ第17番ニ長調D.850」しかり、「1Q84」におけるヤナーチェク「シンフォニエッタ」しかりです
本作でも作曲家の名前やクラシック音楽がいくつか登場します この作品で登場するのは「第2部」以降です
①「私の記憶によればサヴァン症候群には、一度耳にした音楽を、それがどれほど複雑な曲であっても、そのまま一音も違えず正確に再現できる ー 演奏したり写譜したりできる ー 人々も含まれていた。アマデウス・モーツァルトもその一人だったと言われている」(第2巻105 ~ 106ページ)
⇒ これはモーツアルト(1756-1791)が1770年4月11日に、父親レオポルトと共にヴァチカンのシスティーナ礼拝堂を訪れた際に、門外不出とされたアレグリの「ミゼレーレ」(9声部の合唱曲)を聴き、全てを暗記し、外に出てから楽譜に正確に書き写したというエピソードのことを言っています モーツアルトの天才性を語るときに しばしば引用されます
②「ところで彼(イエローサブマリンの少年)は今、どんな本を読んでいるんだろう?」 。「ドミトリー・ショスタコーヴィチの書簡集です」と添田さんは即座に答えた。「愉しそうな本だ」。添田さんはそれに対して意見は述べなかった。眉をほんの少し寄せただけだった
彼女は言葉でよりは表情や仕草で、より多くを語る女性なのだ
」(118 ~ 119ページ)
⇒ 「シュスタコ―ヴィチの書簡集ですか・・・とても愉しそうには思えませんけど」という添田さんの表情が思い浮かびます
③「添田さんは軽やかな音を立てながら、私のデスクの上にそれらのカップと皿(紅茶とブルーベリー・マフィン)と砂糖壺を並べた。おかげで普段はがらんとして殺風景な部屋にも、昼下がりのサロンのような優雅で穏やかな雰囲気が生まれた。モーツアルトのピアノ四重奏曲が似合いそうな情景だ」(134ページ)
⇒ モーツァルトの「ピアノ四重奏曲」には「第1番ト短調K.478」(1785年)と「第2番変ホ長調K.493」(1786年)と2曲あります 著者はどちらのどの楽章を頭に描いていたのだろうか? 「サロンのような優雅で穏やかな雰囲気」という表現から推測するに、第1番であれば第2楽章「アンダンテ」、第2番であれば やはり第2楽章の「ラルゲット」ではないかと思います ー と考えたところで、村上春樹著「古くて素敵なクラシック・レコードたち」(2021年6月・文藝春秋社刊)を思い出しました
これは村上氏が所有するクラシックレコードの中から個人的に好きな486枚を選んで写真入りで紹介している書籍です
さっそくモーツアルトの「ピアノ四重奏曲」を探してみると、「第1番 ト短調」だけが紹介されていました 解説で村上氏は「第1番はト短調なので、どうしてもこちらの方に目が行ってしまうことになる。モーツアルトのト短調ものに僕は目が無いのだ
」と書いています
ここで彼は4種類のレコードを紹介しています。①クリフォード・カーゾン(P)+アマデウス・クァルテット、②ピーター・ゼルキン(P)+アレクサンダー・シュナイダー他、③アルトゥール・ルービンシュタイン(P)+ガルネリ四重奏団、④遠山恵子(p)+ウィーン四重奏団の4枚です
村上氏は「街とその不確かな壁」の「あとがき」の中で、「この小説を書き始めたのはコロナ・ウィルスが本格的に猛威を振るい始めた2020年3月初めで、3年近くかけて完成させた」旨 書いているので、2021年刊行の「古くて素敵なクラシック・レコードたち」はちょうど時期が重なります したがって、上記のレコードのいずれかの演奏を念頭に置いて「昼下がりのサロンのような優雅で穏やかな雰囲気が生まれた」と書いたのではないか、と推測します
まあ、本当のところは著者にしか分かりませんが
④”私”がコーヒーショップで働く女性を初めて食事に誘った時のシーン
「夕方までの時間を送った。ラジオをつけると、FM放送でイ・ムジチ合奏団の演奏するヴィヴァルディの『ヴィオラ・ダモーレのための協奏曲』がかかっていたので、それを聴くともなく聴いていた ラジオの解説者が曲の合間に語っていた。『アントニオ・ヴィヴァルディは1678年にヴェネチアに生まれ、その生涯に600を超える数の曲を作曲しました
当時は作曲家として人気を博し、また名ヴァイオリン奏者としても華やかに活躍していたのですが、その後長い歳月まったく顧みられることなく、忘れ去られた過去の人となってしまいました
しかし1950年代に再評価の機運が高まり、とりわけ協奏曲集《四季》の楽譜が出版されて人気を呼んだことで、死後200年以上を経て、一挙にその名を広く世界に知られるようになりました
』。私はその音楽を聴きながら、200年以上忘れ去られることについて考えてみた。200年は長い歳月だ
『まったく顧みられることなく、忘れ去られた』200年。200年後に何が起こるかなんて、もちろん誰にもわからない。というか、2日後に何が起こるかも
」(173~174ページ)
⇒ 前述の「古くて素敵なクラシック・レコードたち」には「ヴィオラ・ダモーレ協奏曲集」のレコードが3種類紹介されていますが、作品番号までは紹介されていません 放送から流れていたのがこの3枚のどれかであるのか、まったく別の演奏者によるものであるのかも不明です
ところで、ヴィヴァルディの音楽って、どの曲を聴いてもヴィヴァルディと分かるDNAがあるような気がします
⑤「洗濯が終わると、庭の物干しに洗濯物を干した。それから、FMラジオでアレクサンドル・ボロディンの弦楽四重奏曲を聴きながら、何枚かのシャツとシーツにアイロンをかけた シーツにアイロンをかけるには時間がかかる
ラジオの解説者は、当時のロシアではボロディンは音楽家としてよりは化学者として広く知られ、また尊敬もされていたと語っていた
しかし私の聴くところ、その弦楽四重奏曲には化学者らしいところはまったく感じとれなかった
滑らかな旋律と、優しいハーモニー・・・・そういうのがあるいは化学的な要素と言えるのかもしれないけど
」「私のクラシック音楽に関するかなり乏しい知識によれば、アレクサンドル・ボロディンはいわゆる『ロシア五人組』の一人であったはずだ。あとは誰だっけ? ムソルグスキー、それからリムスキー=コルサコフ・・・そのあとが思い出せない」(255 ~ 256ページ)。このあと「ねえ、ロシア五人組のことは知ってる?」「いいえ、知らないわ。それって、なにか政治に関連したことかしら? アナーキストのグループとか」という会話が続く
(261ページ)
⇒ ここで言っているボロディンの弦楽四重奏曲とはボロディンが1881年に作曲した「弦楽四重奏曲第2番 ニ長調」のことで、「滑らかな旋律と、優しいハーモニー」というのは第3楽章「ノットゥルノ(夜想曲)」のことを指しています 静謐な音楽というのはこういう音楽を指すのでしょう
また、「ロシア五人組」はバラキレフを中心に19世紀後半のロシアで民族主義的な芸術音楽の創造を目指した作曲家集団です メンバーは以下の通りです
ミリイ・バラキレフ(1837~1910)、ツェーザリ・キュイ(1835~1918)、モデスト・ムソルグスキー(1839~1881)、アレクサンドル・ボロディン(1833~1887)、ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844~1908)。
話は変わりますが、この小説では「影」が重要な要素として登場します 「影」ということで頭に思い浮かべたのはジャック・オッフェンバック(1819-1880)が作曲し1881年月2月10日にパリのオペラ=コミック座で初演されたオペラ「ホフマン物語」です
詩人ホフマンが、歌う人形のオランピア、瀕死の歌姫アントニア、ヴェネツィアの娼婦ジュリエッタに次々と恋に落ちるが、何れも破綻したという失恋話を語り、現在の恋人・歌姫ステラにも失恋してしまうというストーリーです
このうち第4幕「ベネツィア:ジュリエッタ」は、悪魔のシュレミールが娼婦ジュリエッタに、ホフマンを誘惑して彼の「影」を奪うよう命令し、見事に成功する。悪魔に「影」を奪われたホフマンは息を引き取る ー という内容です
ただし、ここで言う「影」とは鏡に映った「鏡像」のことを指しています
さて、「街とその不確かな壁」における「影」とはどんなものなのか
第1部第8話(上巻58ページ)には次のように書かれています
「そう、その世界では人はみんな影を連れて生きていた。ぼくも『きみ』も自分の影をひとつずつ持っていた ぼくはきみの影のことをよく覚えている。人気(ひとけ)のない初夏の路上できみがぼくの影を踏み、ぼくがきみの影を踏んだことを覚えている。子どもの頃によくやった影踏み遊びだ
」
つまり、著者は「影」を「物体や人などが、光の進行を遮る結果、壁や地面にできる暗い領域のこと」(英語で言えば shadow )と捉えていることが分かります
しかし、本書の中では「影」が本人から分離して「壁」の反対側の世界で「生きている」ことを考えると、「黒い影」よりも「鏡に映った絵姿 = 鏡像」とした方が分かり易い、あるいは説得力を持つのではないかと思いますが、どうでしょうか
上・下巻合計で870ページを超える長編小説ですが、これまで読んだ村上作品と比べて読み易く、あっという間に読了したことを付け加えておきます
今日はサントリーホール「ブルーローズ」で開かれる サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン「プレシャス1pm Vol.2」を聴きに行きます