すみません。時計の作業と平行で進めていますので進捗が遅いです。「時計の地板のネジは抜けたか?」とご心配メールも頂戴していますが、まだ抜けません。というか腐食ですが、薬品の効果が穏やかでサンポールの塩酸程度と一緒ですね。地板の雌ネジを見ると山が増えていますので腐食はしているのでしょう。あと1mm強です。ただ、真鍮は侵さないというところがミソ。しかし、ニッケルメッキは侵されてしまいます。で、カメラの方ですが、このFT#1397XXのご依頼は同市内の女性の方から。なんでも勤め先で昔に使用していたFTを払い下げられた由。初期に近い製品ですが外観はまぁまぁですね。仕事であまり使用されなかったのでしょう。しかし、緊急処置をしても全く動かない。分解をしてみると、シャッターユニットと前板(ミラーユニット)を分離してもシャッターは動かない。おまけに←のバネが折れています。通常はあまり折れることは少ないのですが、ダブルテンションでも掛けたのでしょうか? 治して使ってみたいとのご希望ですので、いつものように女性にはやさしいので何とかしたいと思います。
では、洗浄済みの本体にモルトを貼ってスプロケット軸とスプール軸を組立てて行きます。この部分に特に問題はありませんね。
この頃の個体で長期に放置されていたものは、まず電池室の腐食とリード線の劣化があります。FTに使われるリード線の色は大体は決まっていますが、電池室からのものは何色か使われています。青がオリジナルで付いていたもので芯線の酸化で半田が乗りませんので新しい赤のリード線に交換します。赤の方が使われている比率が高いのです。殆どの個体でスプロケット軸が劣化した古いグリスでひどいことになっていますが、この個体は全て分解洗浄して組んでいるのできれいなことに注意。
フリーズしていた問題のシャッターユニットですね。直接の原因はブレーキ関係の部品のクラックによる分解でした。良品に交換して組み直しています。
やれやれ、これで一安心かと思いましたらスローの1秒が止まります。それも、スムーズに動く時といきなり止まる時が交互に発生します。原因はギヤの錆発生ですね。長期に放置されていた個体に多い不具合です。これは厄介ですよ。
とは言っても治さないわけには行きませんので治しました。スローガバナーという部品は時間をコントロールするという意味において時計と同じなんですね。どちらもガンギ車とアンクルによる脱進機によって制御されています。この辺りの原理を知りたい方は時計の勉強をされると理解が出来ると思います。ミラーユニットのバネを良品と交換して組んでみたところ。1秒も正確に切れています。リターンミラーと、チラッと見えるシャッター幕をよ~く見てくださいな。作動しているのが解りますでしょうか? では、最後の難関は露出計がどうなっているかですね。
懸念はしていたのですが、やはりダメですね。ロッカーの中に長期放置ですから電気部品はどうしても劣化しています。Cdsも弱っていますが今回の問題はメーターです。作動したりしなかったり、シャッターダイヤルの回転に同調して針の指示が不正確に踊ったり引っかかりで止まる。針が張り付く場合は帯電している場合もありますが、今回のそれは違いますね。メーターのコイルを取り出して、電気接点などをやり直して行きます。また、ピボットのガタ量が大きめで、それによって指針の動き始めがスムーズでないようです。時計であれば軸の先端のホゾ部分がルビーなどの穴石で保持されるのですが、メーターの場合は先端が剣先でピボット受けですから、長期に作動しなかったものは錆の発生や磨耗汚れで特に初期作動が不良となるケースがあるようです。
付属の38mm標準レンズを清掃しておきます。長期放置のためレンズのクモリが目立ちます。分解して油の付着した絞り羽根を洗浄して行きます。
結果的には全ての部分に不良個所を抱えている個体でしたね。これは単なるオーバーホールではなくてレストアに近い作業です。でもね、1台でもこの個体のように隠れたFTが復活するなら、FTを使ってみたいという方がいるなら頑張って治しますよ。特に女性ですからね。圧板には、そこそこのフィルムすり傷がありますので、全く使用されなかったのではないと思われますが、レンズマウントにはすり傷は全くありませんので、レンズの交換はせず、このセットで使われて来たのでしょう。全て完調としてありますが、特に巻上げのフィーリングは最高の部類です。ガリガリのFTを使っている方には目から鱗ですよ。FT君としては地獄で仏でしたね。新しいオーナーさんに大切にしてもらうように・・