最近、PEN-FVを入手されたオーナーさんから「ファインダーの無限遠が出ていない」とのことでオーバーホールのご依頼を頂きました。シリアルは#1035XXと最初期の個体ですが、ご覧のようにカバーの傷やメッキの劣化も無く、非常にきれいな個体です。
しかし、私の過去ブログをご覧頂いたオーナーさんから、各部の仕様がおかしいのでは?とご指摘がありました。アンダーカバーを外してみると・・あれ、これは変ですね。#1035XXの製造は、おそらく製造開始の1967年2月付近と推測しますが、この個体に使われているダイカストボディーはFTでは30万台(1970年)付近のものです。しかし、ミラーユニットやリンケージは前期型(初期)のものになっています。なんで??
トップカバーを外してみると・・このネジ穴はFTのみにMX切換接片が付いているネジ穴で、FVでは接片は付いていないため使用されません。しかし、絶縁ワッシャーが締め込まれていた形跡があります。これはFTとして工場を出たボディーです。リード線が途中で繋いでありますが、これはFVは接片を経由しないためFT用リード線(赤)に直接繋げたのです。
巻上げレバーの「カクシイタ」はFTとFVでは露出計ユニットが無いため形状が異なりますが、接着痕を見るとFV用に貼り替えられた形跡があります。
ボタンドメのバネの形状が変ですね。これはFTとFVでは電池室の有る無しによって形状が異なりますが、何故かFV用を曲げているようです。
前面から見ると、ミラーボックスの前板が変です。これは前期型の前板です。ボディーと対の前板ならば+ネジになっていなければなりません。何故、前期型の前板を使ったのか? 1つには、セルフタイマーユニットは前期型と後期型では、2つの取付けネジの間隔が異なるので、前期型のセルフタイマーユニットを使用する場合は前期型の前板を使う必要があります。
問題のミラーユニット。無限調整のイモネジが痛んで曲げられています。これは無限調整が出来ないため、無理に曲げて調整を取ろうとしたようです。
接合部の内側をヤスリで削って調整を取ろうとした形跡があります。このカメラの無限調整範囲は非常に狭く、正常な部品の組合せで組んでも、ギリギリ調整が取れる個体もありますが、今回の場合、後期の30万台のダイカストボディーに前期型の前板を組み合わせたことで無限調整が取れなくなっていると思われます。ボディーと前板はセットで管理する必要があります。
シャッターユニットは後期のユニットです。以上の事から推理すると30万台のFTに初期型のFVの前板ASSYとFV専用部品を組み合わせて作った個体ということでしょう。
最終的にオーナーさんのご判断により、オーバーホール作業は中止となりました。誠に残念な個体でした。
製造開始年月の個体は非常に貴重ですので、同年月製造のFT(#125000付近)と組み合わせて完全復元をして行こうかと考えています。