今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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セイコー・ロードマチックのO/H

2012年08月01日 22時52分19秒 | インポート

Dscf015455_2 その前に、セイコー・スーパーのリューズを取り付けます。巻き芯はデッドストックの新品ですが、リューズはジャンクからの調達です。巻き芯は補修用の部品のため、ケースに合わせてカット出きるように、ネジ部が長めになっています。リューズをねじ込んでから、ケースに挿入してカットする寸法を計測します。

Dscf015667 僅かに長めにカットしました。リューズの締め込みによりクリアランスが減るのを計算に入れています。最近では珍しい16mm幅のベルトをセットしてみます。一応の雰囲気は分かりましたね。文字盤は完成していませんので、また、分解することになります。

Dscf014566 で、本題です。北海道のINOBOOさんからオークションで落札した時計が直接送られてきました。セイコー最後の機械式キャリバーを搭載したロードマチックです。この個体は1968年製の初期型ですが、致命的な欠点は無いのですが、風防やケースは実用品として使い込まれた状態で傷だらけです。しかし、この機械(56系)はキングセイコーやグランドセイコーにも発展した優秀な機械ですので、O/Hをしたいと思います。

Dscf015546_2 このケースは裏蓋のないワンピースケースで、機械を取り出すには風防を外して前から分離する必要があります。セイコー純正の工具で風防を外しています。

Dscf015937 風防が外れると、機械はポロッと出てくるわけではなくて、機械を固定しているスナップリングを回してから取り出します。

Dscf016127 傷の多いケースを研磨しています。手磨きでは、どうしてもシャープなエッジがスポイルされてしまいます。この後、リューターで仕上げます。ご覧のように裏蓋はありませんので、歩度調整は機械を取り出さなければ出来ません。兄貴分のキングセイコーでは、ラグ間のビスがあり、そこから調整が可能となっていますけどね。まぁ、どちらにしても、面倒くさい方式です。

Dscf016364 機械を取り出しました。初期型の23石で、昭和53年(製造されて10年目)にO/Hを受けた書き込みがありました。熟練の時計師さんだったようで、分解によるキズは皆無といって良いきれいさです。その時計師さんに敬意を表して、私もキズをつけないように慎重に分解をして行きます。

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曜日の表示窓は60年代のウィークデーターなどで見かける6時位置配置されていますので、曜車の文字も円周状にプリントされています。中央のワッシャーを外すと分解することが出来ます。

Dscf016698 では、組み立てて行きます。ゼンマイの入った香箱車にグリスを塗布してセットします。

Dscf017184 しかし、普段は40年後半から50年代の機械を相手にしていると、ある意味、組立は非常に楽なのです。受けをセットすると、何の苦労もなく歯車のホゾが入ってくれます。部品の加工精度は全く比較にならないほどの進歩を遂げています。画像は、リューズを前後に回して日付と曜日の進み具合をチェックしているところ。この個体は、曜日が変わりきらない持病を持っていたようです。

Dscf017296 日車をセットして、正常に切り替わるかをテストしています。日付の調整禁止時間帯で無理に切り替え操作をされていた個体で、樹脂部品で組まれている個体は、送り部分に無理が掛かって部品の変形による不具合がありますが、この個体は、材質が金属ですので、全く問題はありません。

Dscf017364 後ろは研磨をしたケース。自動巻きのローターを外した機械は何と薄いこと。機械式では最後の設計で、技術は最高水準に達していた頃です。

Dscf017566 完成した機械をケースに収めます。風防はすでに純正部品の入手は不可能ですが、社外品の新品は入手することが出来ます。外周のエッジが純正よりシャープな感じがします。最後にベセルを圧入をして風防を固定します。

Dscf017660 これで完成です。典型的なセイコーデザインで、悪く言えば個性のないデザインとも見えますが、私は清潔感と品の良さを感じて好きですね。防水性を上げるためのワンピースケースですが、歩度調整時にもベセルをこじ開けなければならないのは、確実にケース(ベセル)にダメージを与えるので、裏蓋ネジ式の方が良いと思います。まぁ、何度も開けるなということでしょうか。安定した精度と小型、薄型化を達成した56系の機械は、日送り機構の弱さなどのウィークポイントもありますが、クォーツ腕時計の時代となっても、最後まで生産をされた優秀なキャリバーと言うことが出来るでしょう。