東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2022年05月10日 | Weblog

ロシアの文豪ドストエフスキーには人生がかかった「締め切り日」があった▼約束の日までに長編小説一本を書かなければ契約によって以降九年間、ドストエフスキーが書いた作品はいっさいの印税なしで、出版社が出版権を持つことになっていた。ロシア文学者、原卓也さんが書いた『賭博者』(新潮文庫)の解説に教わった▼当時は雑誌に『罪と罰』を連載中で別の長編を書く余力がない。友人の知恵を借り、速記者による口述筆記で書くことにした。わずか二十七日間で完成させ、締め切りを守ることができたそうだ。その作品が『賭博者』である▼同じロシアの「締め切り」でもこちらの方は守られなかった。守られなかったのが幸いである。九日の対独戦勝記念日。プーチン大統領はこの日までにウクライナ侵攻で大きな成果を上げ、国威発揚につなげたかったが、ウクライナの抵抗によって曲がったたくらみはついえたといえる▼人道を無視した残虐な攻撃も九日までの成果を狙ってのことか。特段の成果を残せなかったことで、むしろ、士気を高めているのはウクライナの方である▼「正義のために戦っている」。プーチン大統領のこの日の演説もむなしく、大統領を支持するロシア国民にもこの戦争への疑問が広がる可能性もある。ドストエフスキーの友ではないが、撤収を促す知恵ある友は大統領にはいないものか。