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今日の筆洗

2022年05月30日 | Weblog

お酒の寿屋(現サントリーホールディングス)出身の作家、開高健が書いた『やってみなはれ 戦後篇』の中に同社が生き残りをかけて連合国軍総司令部(GHQ)に対して攻勢をかける場面がある▼当時の鳥井信治郎社長が大阪の司令部にサントリー製ウイスキーをさげて乗り込んだ。「大将の早業はたちまちキマッた」とある▼終戦の八月からほど遠くない十月一日には占領軍の納入品に指定されていたそうだ。当時の社長室には将校や軍関係者がしじゅう出入りしていたそうで「大将はけじめもつけずに飲ませてやった」▼混乱の終戦直後を生き抜くための「ふるまい酒」なら商才、商魂の類いとして持ち上げられもしようが、こちらの酒にいやなにおいはないのか。安倍元首相の後援会が「桜を見る会」前日に開いた夕食会に、サントリーが三年間で計四百本近いウイスキーやワインなどを無償で提供していたそうだ▼同社は「製品を知ってもらう機会と考え、夕食会に協賛した」と説明するが、政治家個人への違法な企業献金に当たるのではと指摘する声もある▼「人間らしくやりたいナ」は開高さんによるトリスの名コピーである。戦前から宣伝上手で知られる同社だが、違法かどうかはともかく、時の権力者側への不可解な「ただ酒」はあまり、よい宣伝にはなるまい。穏やかで気楽な「人間らしく」をこの話に感じない。