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今日の筆洗

2022年05月16日 | Weblog

雨が降った次の日、ムーミン谷全体がどす黒くなっているのをムーミンが発見する。空も川も地面も全部、黒い▼「すべてのものが、どす黒いのです。この世のものと思えないほど、気味悪いようすをしていました」。異変の原因は彗星(すいせい)の接近。フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの『ムーミン谷の彗星』である▼スナフキンが教えてくれる。「彗星はひとりぼっちの星で、頭がへんになっているのさ。それで宇宙をころげまわっているんだ」「たいへんさ。地球が、こなごなになっちゃうよ」▼作品が発表されたのは第二次世界大戦が終わった翌年の一九四六年。ヤンソンがおそろしい彗星に重ねていたのはフィンランドと戦ったナチス・ドイツだったかもしれない▼ムーミンたちは「洞窟」に隠れ、彗星接近の難を逃れたが、ロシアという新たな彗星の接近にフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)という「洞窟」に逃げ込もうとするのは自然だろう。米ソ対立の時代にも軍事的中立を保った同国が方針を転換し、NATOに加盟申請すると表明した▼ロシアのウクライナ侵攻にはウクライナのNATO入りを阻む側面があったが、その暴挙がフィンランドを警戒させ、NATOへとかじを切らせた。同じく、中立だったスウェーデンもNATO加盟に動く。「彗星はひとりぼっち」−。スナフキンの言葉がよみがえる。