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今日の筆洗

2021年06月09日 | Weblog

 魔女が生まれたばかりのオーロラ姫に呪いをかける。「この子は糸車の針に刺され、死ぬだろう」。童話の「眠れる森の美女」である▼別の魔法使いがこう申し出る。「呪いは解けませんが呪いを弱めることはできます」。姫は死を免れるが、百年の眠りにつく▼作家の中島京子さんが小説『長いお別れ』の中でこの話を認知症の薬にたとえていた。認知症の家族を世話する方ならお分かりだろう。医師から処方薬についてこんな説明を受ける。「薬は症状の進行を遅らせるもので進行を止めることはできません」。今の薬では認知症という「呪い」を解けない▼ついに新しい魔法使いが来てくれたのか。日米の製薬会社が開発したアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を米食品医薬品局が承認した。「進行を遅らせる」以上に「進行を抑制する」世界初の薬だという▼アルツハイマー病は「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質が神経細胞を傷つけることで起こるとされるが、新薬にはこのタンパク質を減らす効果があるそうだ。「呪い」の原因を直接たたくのか▼世界の認知症患者数は約五千万人。大半がアルツハイマー病である。有効性に不確実な部分もあり、臨床試験を追加する条件付きで承認されたが本物であれと願う。患者に加え、家族や周りを含めれば、その病はいったいどれだけ多くの人を悲しませていることか。