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今日の筆洗

2021年06月12日 | Weblog
 要領が悪く、上官の感情を読むのも苦手だった漫画家の水木しげるさんは軍隊で「ビンタの王様」のあだ名を付けられていたという。さんざんなぐられていたからである▼「ビビビビビ」「ビン」。自伝的な作品などに数多く登場するその場面では、独特の音が必ず響く。不思議な表現だが、痛みと屈辱の思いが加わって、電撃のような響きが聞こえたのかもしれない▼こちらのビンタは、どうも襲撃というには弱々しかった。フランスのマクロン大統領が市民との交流の場で、男に突然平手打ちされた一件だ。ただ見た目以上のショックが広がっているようだ▼なぐった男は、反政府運動への共感を示していた。仏メディアによれば、仲間とみられる人物が動画を撮影して、即座にネットのソーシャルメディアに流している。屈辱的な場面を世に広め、暴力をあおろうとしていたおそれもありそうだ。議論や手続きを無視して世の中を動かそうとする力の表れとも指摘されている▼大きな権力と、昔は七年、今は五年という長い任期を持つ仏大統領である。ドゴールやシラク氏の時代に、暗殺未遂事件も起きている。直接選挙で選ばれることもあって、大統領自身が人の中に入り、国民との近さを示す場面も多い国である▼いやな雰囲気はフランスに限らないだろう。強くはない平手打ちからビビビビビと警告の音が聞こえそうだ。
 
 マクロン大統領 市民に顔を平手打ちされる(2021年6月9日)