不幸な過去を背負った青年が飲食店経営の夢を目指す。最初の店はどこで開くか。青年はある街に魅了される。通りにあふれる自由な空気と活気。韓国ドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』である▼日本人にもなじみのある地名に胸を痛めている人も多いだろう。ソウル中心部にある人気の繁華街、梨泰院でハロウィーンを楽しんでいた群衆が折り重なるように倒れ、大勢の方が亡くなった▼若者が酒をくみ交わし、騒ぐ陽気な街。息抜きの場でもあったのだろう。その梨泰院が一瞬にして悲劇の街となってしまったのか。犠牲者の大半が若者たちだったと聞く。やりきれない▼いわゆる「群衆雪崩」が起きたらしい。狭い場所や通路に大勢の人が殺到した場合、ささいなことが原因となって、人を次々となぎ倒してしまう▼現場は坂になっている。思い出すのは青年が夢をかなえ成功する、あの韓国ドラマの方ではなく、襲ってくる兵隊におびえた群衆がわれ先にと階段を駆け降りていく、映画『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段の場面か。殺到する人の波にのまれ、倒されては身動きはおろか呼吸さえ難しくなる▼居酒屋にいた有名人を見ようとして人が殺到したとも伝えられるが、雑踏警備や普段からの安全対策は十分だったのだろうか。検証と再発防止が必要である。若者を魅了する夢の街を若者の命を奪う街に二度と、変えたくない。