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今日の筆洗

2022年10月08日 | Weblog
作家の沢木耕太郎さんの『深夜特急』は自身の若いころの体験に基づき、香港からロンドンを目指す一人旅を描く。主人公の「私」は旅の序盤、カジノでサイコロ賭博に熱中する。場所は香港から足を延ばした、当時ポルトガル領のマカオ▼安宿の旅で手持ち資金は多くない。勝ち負けとんとんでいったん切り上げ、香港に帰ろうと考えたが自問自答の末、賭けを再開する。「やめて帰ろうという判断は確かに賢明だ。しかし、その賢明さにいったいどんな意味があるというのだろう」「心が騒ぐのなら、それが鎮まるまでやりつづければいい」▼マカオがコロナ禍以降初めて、中国本土からの団体旅行受け入れを再開するという▼中国に返還され二十数年。カジノは本土の客に依存するが、疫病で激減した。外出を制限する流行地の都市封鎖は今後も続くため、客の急回復は望み薄という▼客には蓄財した大陸の役人もおり、反腐敗運動を進める習近平政権はカジノも標的に。資金洗浄に関わったなどと関連業者が摘発され、カジノの富裕層専用室は次々閉鎖された。当局はコロナもカジノも「潔癖」志向らしい▼深夜特急の「私」は金の大半を失った後に許容範囲の負けまで戻し、潮時と切り上げる。地獄も垣間見て満足し「自由になれたような気がした」という。破局にも誘(いざな)う開放的な空気はもう、以前のそれと違うのだろうか。