簡単に出口が分からないように造られた迷宮といえば、ギリシャ神話のそれが有名。クレタ島のミノス王が牛頭人身の怪物を迷宮に閉じ込めた。道路が入り組んでいて、出てこられない▼別の王の息子テセウスが黒い帆の船に乗ってクレタ島に怪物退治に赴くが、現地のミノス王の娘が彼に心ひかれ、迷宮に入る前に糸巻きを渡す。テセウスは教えられた通り、糸の端を扉に結んで迷宮を奥に進み、中庭のような場所で怪物を仕留め、糸を手繰って迷宮の外へ出たという(串田孫一著『ギリシア神話』)▼難航し迷宮入りしたともささやかれた事件の捜査が急展開した。京都で二〇一三年十二月、「餃子の王将」を展開する会社の社長が射殺された事件で、殺人などの容疑で暴力団幹部が逮捕された。予断は禁物だが、捜査は迷宮を抜け出せるのだろうか▼現場付近で見つかったたばこの吸い殻のDNA型が、容疑者のものと一致したというが、被害者と容疑者の接点など分かっていないことは多い。全容解明はまだ先だろう▼迷宮を出たテセウスは船で帰路についたが、怪物を退治したなら白い帆を掲げるという父との約束を忘れた。待っていた父は、海に見えた船の帆が行きと同じ黒色であることに落胆し海岸の崖から身投げ。テセウスは父の死を悔しがったという▼迷宮を脱したと思って気を緩めるな、という戒めとも読める。