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今日の筆洗

2020年12月28日 | Weblog

 食うや食わずのひどい生活だった。人並みの暮らしをしたいと願い、脇目も振らず働いた。生活は次第に上向いた▼よし、もっと頑張ろう。こしらえた品物は世間の評判を取った。豊かになった。すると、まわりは白い目で見るようになった。あいつは経済に目がくらんだアニマルなのではないか▼当時の日本人はもやもやしただろう。終戦から奇跡の復興を成し遂げ、自信もついたが、世界はさほどほめてくれぬ。一九七九年、その人は日本を「ナンバーワン」だと言ってくれた。日本の高度成長期の背景を日本人の勤勉さなどにあると分析したベストセラー、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の米社会学者エズラ・ボーゲルさんが亡くなった。九十歳▼お堅い本が約七十万部も売れた。分からぬでもない。ハーバードの学者が日本を見習えと書いてくれた。頭をなでられた気がした▼もとは低迷期の米国を刺激する材料として書かれていた。かつての駐日米国大使、エドウィン・ライシャワーはボーゲルさんにこう語ったという。「米国人には必携の書。だが日本では禁書にすべきだ」。日本人が得意になることを心配していた▼われわれは得意になったのか。その後の日本。ボーゲルさんのほめた雇用制度や社会制度での見直しが遅れた。教育制度もどうも怪しい。日本の現在に、その輝かしい題名を目にするのが少々つらい。