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今日の筆洗

2020年12月12日 | Weblog

 長剣物干竿(ものほしざお)を構える巌流(小次郎)、海を背にして見つめる武蔵。「………」「………」。『宮本武蔵』の巌流島の決闘である。吉川英治の筆は、両者無言の会話ならざる会話を繰り返しながら、高まる緊張感を、えがき出していく▼<寄せ返す波音の五たびか六たびも繰り返すあいだであったろうか。やがて−>。小次郎の第一撃まで、二人だけの空間は緊迫しつつ静かだ。手に汗をにぎらせる見事な描写が続く▼その巌流島の緊迫感を思い浮かべている人もいるようだ。歴史的大一番といわれる柔道の阿部一二三、丸山城志郎両選手の試合が迫ってきた。東京五輪代表の座をかけた東京・講道館での一戦は明日。観客は入れず、一試合だけの異例の形式だ▼豪快に一本を狙う阿部選手も、「日本刀の切れ味」の内股の丸山選手も侍を思わせる。ともに金メダルが有望という。近年、同じ階級で激しく競い、直接対決の戦績、内容も甲乙付けがたい。コロナ禍で大会がなくなる中、ここで決着をつけることになった▼今年は観客のいない他競技の中継を見るたびに、静寂を残念に感じてきた。この試合は少し違うか。静かさの中で始まる試合を想像するだけでこちらの手に汗がにじむ▼<生涯のうち、二度と、こういう敵と会えるかどうか>。戦いの後、武蔵は心の中で言う。両選手にも、みる人にも、同じ思いが残るのではないか。

12.13(日)15:00~】丸山城志郎 対 阿部一二三|東京2020オリンピック柔道男子66kg級日本代表内定選手決定戦