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今日の筆洗

2020年12月25日 | Weblog

 <目とじても片隅に咲く月見草>。劇作家寺山修司が「誰か月見草を思わざる」という一文の中に記している。夜の間咲いているその花に重ねているのは袴田巌さんである。静岡県で四人が殺害された五十四年前の事件で、死刑を言い渡されたその人だ▼プロボクサーだった袴田さんを何試合か見ている寺山は、事件を知って驚き、その取り調べに「ボクサーくずれ」への偏見があったのではないかと疑問を強くした。支援の活動にも加わっている。夜ひっそり咲く花に見ていたのは、死刑判決を受け、無実を訴えながら、暗黒の日々を生きる姿だったようだ▼その袴田さんに再審の可能性をもたらす最高裁の決定である。決定を知らされた袴田さんは、「こんなもの来るはずない」と話したという▼死と隣り合わせの生活が心にもたらした影響は、地裁の再審開始決定で六年前に釈放された後も残っているようだ。暗黒の日々の長さを思わざるをえない▼最高裁は、再審開始を認めなかった高裁の決定を取り消した。事件の一年以上も後に見つかり、有罪の最大の根拠となった衣類。血痕の変色などについて審理が尽くされていないとし、高裁に再検討を求めた▼疑わしきは被告人の利益は原則だろう。寺山が「打たれ強いボクサー」であったと記した袴田さんも八十四歳である。夜は終わったわけではない。急がなければなるまい。