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今日の筆洗

2019年03月12日 | Weblog

 「どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ…」。宮沢賢治の「風の又三郎」。「どっどど どどうど」は風の音。又三郎はそんな風の強い日にやってきた転校生である▼同級生の嘉助は不思議な夢を見る。ガラスのマントとガラスの靴を身に着けた又三郎が風を従え、空を飛ぶ。「いきなり又三郎はひらっとそらへ飛びあがりました。ガラスのマントがギラギラ光りました」▼賢治と同じ岩手出身の若者にはガラスのマントはないけれどやはり風を友に飛ぶのであろう。ノルディックスキー・ジャンプの小林陵侑選手。十日の競技の結果、日本男子初のワールドカップ個人総合優勝を決めた。歴史的快挙である▼歴代優勝者を見れば欧州勢が独占してきた競技である。その牙城を昨シーズンまでは六位がやっとだった若者が見事に崩した。急成長の裏側にある精進と心の強さに拍手を送る▼優勝決定は日本時間で東日本大震災の三月十一日。岩手の被害も大きかった。「これからは岩手県勢が頑張っていくぞという日になれば」とコメントしていた。「どっどど どどうど どどうど どどう 悲しみも吹きとばせ」。そのジャンプに励ましの風の音を聞く▼まだ二十二歳。又三郎はすぐにまた転校したが、小林選手はきっと長い間、われわれに良い風の音を聞かせてくれる。

 
 

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