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今日の筆洗

2019年03月02日 | Weblog

 山三(さんざ)は恋敵の伴左衛門と吉原ですれ違う。刀の鞘(さや)と鞘がぶつかって、にらみ合った。歌舞伎『鞘当(さやあて)』の名場面である。「今行き違いの鞘当が、縁となったるこの出合い…」。怒りに火を注ぐ言葉が二人の間を行き交い、すぐさま斬り合いが始まった▼鞘がぶつかり、どちらかが挑発と受け止める。武器を携えた武士の世界で、現実にありえたから生まれた名作であろう。左に刀を下げた武士たちは、意図せぬ斬り合いを避けるため、道の左を歩いた。諸説の一つらしいが、その作法は、今日の左側通行の起源になったという▼インドとパキスタン。積もった敵対感情があり、いつでも互いを攻撃できる武器も携える隣国同士である。互いに譲れぬ作法もあるから、用心をしていても、衝突が起きる▼今回も深刻なようだ。領有を争うカシミール地方で銃撃の応酬が起きている。インドはパキスタン領を空から攻撃し、パキスタンはインドの戦闘機を撃墜した。パキスタンの武装勢力がインドで起こしたテロが引き金だという▼核武装している両国である。国際社会も懸念する。エスカレートを避ける努力が始まっているようだが、ささいな鞘当も大きな不安を招く両国だ▼役者も使った「鞘走る」なる言葉がある。抜くつもりはないのに下を向いたときに、刀身がひとりでに抜ける。意図せぬ行き違いを想像し、一刻も早い収拾を願う。

 
 

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