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今日の筆洗

2019年03月28日 | Weblog

ハンカチをかみしめて、泣き叫んでいる声が聞こえてくるようである。ピカソの「泣く女」(一九三七年)。慟哭(どうこく)の理由は第二次世界大戦へと向かう時代への苦悩と悲しみか▼モデルは写真家でピカソの愛人だったドラ・マールである。知的な一方、感情の起伏が激しく、絵の題名通り、実生活でもよく泣いていたらしい。ピカソの妻と取っ組み合いを演じた伝説もある▼十年近い関係の後、ピカソに新しい愛人ができるとかわいそうに心を病んでしまう。ドラと交際した米作家ジェームズ・ロードの『ピカソと恋人ドラ』によるとその後はピカソを憎み、ピカソを愛する人生だったらしい。ピカソのモデルと言われることを嫌い、自分の芸術作品が世間に評価されぬことにも苦しんだ。九七年に亡くなっている▼フランスで停泊中の豪華ヨットから九九年に盗まれたピカソ作品が最近アムステルダムで発見されたそうである。日本円で約三十一億円相当の価値とはさすがにピカソである▼この作品もモデルはドラである。宝物探しの考古学者が主人公の人気映画にちなんで「美術界のインディ・ジョーンズ」との異名を持つ美術品回収専門家が見つけた▼ドラはピカソが自分を描いた作品を「すべてインチキで私を描いていない」と語っていたが、インディに犯罪の闇から救い出され、よく「泣く女」も少しはほほ笑んでいるか。

 
 

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