女性に縁のない若者がどうしたらモテるかをご隠居に相談する。落語の「稽古屋」にそんな場面がある▼ご隠居いわく「まずは顔だね」。そっちの方は売り物にならない。他にはと聞くと「つぎに金だね。おまえさんいくら持っている」。若者は「言いにくいね」と警戒する。その金を狙われないか。「苦労して貯(た)めた金。おまえさんはいいとしてもおばあさんが聞いている」。おばあさんを湯にやり「さあ話しな」。若者は「いやまだネコがそこで聞いている」▼冷酷な事件を語るのに落としばなしを持ち出すのは気が引けるが、誰かに財産の話をするのなら、所持金わずか三十銭でもネコを追い払わせたあの若者をお手本にしたい。「アポイントメント電話」の事件である▼息子や銀行員などを装い、電話で高齢者から資産を聞き出し、詐欺などの標的にするという。東京都江東区のマンションで高齢女性が強盗に襲われ死亡した事件でも事前に「お金がありますか」というアポ電がかかっていたらしい。許し難い事前調査である▼似た手口の強盗が続いている。うっかり漏らすのを防ぐにはやはり電話に出ないのが一番だそうだ。留守電にしておき、本当に大切な用件ならかけ直す。そもそも電話で懐具合を聞いてくる人間を一切信用してはならぬ▼電話のベルが鳴れば犯罪と疑えか。情けない時代だが、それぐらいの注意を。