フランス語で、「ザワークラウトの中で自転車をこぐ」という言い方があるそうだ▼ザワークラウトは酢漬けのキャベツ。これで一歩も前に進めず、お手上げの状態という意味になるそうだ。『誰も知らない世界のことわざ』という本の中にあった▼酢漬けのキャベツの中で自転車をこぐのは確かにお手上げだろうが、語源は伝統の自転車競技ツール・ド・フランスにあるそうだ。リタイアした選手を拾い上げる車にザワークラウトの広告がしばしばついていたため、こんな言い方が広まったらしい▼さて、フランスのルノー会長でもあった被告はザワークラウトの中から脱出することができたのか。昨日、保釈された日産自動車前会長のゴーン被告である。身柄拘束は解かれたものの厳しい立場にあることに変わりはなかろう▼カリスマ経営者の転落、長期勾留につながる日本の「人質司法」の問題、十億円もの保釈金、被告の変装…。一連の経過に目を奪われたが、解明されるべき問題は被告が私的な損失を日産自動車に付け替えるなどの不正を行ったかどうかである。肝心な事実は依然としてザワークラウトに埋もれたままである▼フランス語のことわざをもう一つ。「さて羊に戻るとしようか」。古い喜劇の中のせりふに由来するそうで、意味は「本題に戻る」。保釈騒動に区切りを付け、冷静に事実解明の「羊」に戻りたい。