日本酒も、世界の人々に愛されるようになりました。各種の品評会で、優秀な賞を取るまでになっています。以前は、甘口で濃厚な昧の酒が好まれていました。農業や工場の肉体労働者の方が、清酒の顧客層であっため、濃厚で甘口な昧が好まれたようです。近年は、肉体労働から頭脳労働へと仕事の質が変化し、すっきりと飲める酒が好まれるようになりました。お酒の嗜好が、純米酒や大吟醸などに移ってきたようです。ある面で、高い品質が求められるようになってきたわけです。地元の農家と契約を結び、原料米を厳選する酒造会社が増えてきているのです。そのような切磋琢磨が、世界で愛されるお酒に成長してきているのかもしれません。世界には、いろいろな嗜好を求める方がいます。値段が高くとも、自分の好みにあったお酒を飲みたいという人もいます。であれば、自社が販売価格を決めて、愛好者に提供することが合理的です。すべての人に売ろうとすると、苦労が大きくなります。無理をして売らなない戦略も、選択肢になります。久保田の朝日酒造は、1%戦略を打ち出しました。100人のうち1人が、お客になれば、「良し」とする戦略です。
品質の良い食品を求める人たちにたいしては、適正な価格でお届けするビジネスが行われるようになりつつあります。たとえば、世界中でサーモンの消費が増えています。世界のサーモンなどサケマスの養殖量は、350万トンと10年で約1.5倍に増えました。特に、ノルウェーは年間約90万トン生産量の95%を輸出するようになりました。IT技術や魚の健康管理など最先端の養殖技術で、世界140カ国にサーモンを輸出しているのです。回転寿司の中で最も人気のあるサーモンの世界最大の供給国は、ノルウェーになります。このノルウェーの生産量の伸び率は、年5%を目安にしています。それ以上でも、それ以下でもないことが、利益を確実にしているようです。サーモンは、和食人気と相まって非常に人気があります。中国では、魚の消費が増えています。ノルウェーの生産するすべてのサーモンを供給しても、足りないほどの消費国になっているのです。この中国に、慌てて多くのサーモンを輸出しなくとも、毎年確実に消費してくれる人々に、少し足りない程度の量を提供すれば、確実に利益を上げることができるわけです。
ノルウェーの養殖業者の現場担当者は、日本の3倍程度の720万円の給料を手にしています。日本の沿岸漁業者の給与平均年収は、残念ながら240万円程度なのです。また、ノルウェーの天然魚の漁業に従事する人たちの給料は、養殖魚者より多くなります。給料が良いので、人材も医療系やIT系など多様な分野から若者が集まってきます。大学で5年から6年間を学ぶ専門医のフィッシュドクターは、この国で大人気の職業の1つになっています。最新設備を搭載した漁船や「いけす」、そして自動給餌器鮮度を保つ物流施設などに国家戦略として投資しているのです。最先端の技術と人材がノルウェー漁業の成長を支えているわけです。
万全と思えるノルウェーにも、課題が浮かび上がってきています。温暖化の足音です。世界の平均海面水温は、過去100年間に0.54℃上昇しました。太平洋や日本海、東シナ海では、世界平均より大きい1.1℃の海面水温の上昇がみられます。北東太平洋の定点では、表層水中の酸素濃度が50年問で約15%も減少しているのです。海水面の水温上昇は、海洋生物圏の縮小を促す原因になります。その表れが、日本の真珠になります。日本の真珠の大産地で、アコヤガイの大量死が続いているのです。三重県志摩市の英虞湾では、貝の呼吸器官が縮み死んでしまう現象が拡大しているのです。海の酸素不足が、原因とされます。酸素濃度が15%も減少すると、生物資源は20%以上減少すると言われています。海洋の表面水温の上昇には、さまざまな点で困った副作用をもたらしているのです。
ノルウェーでは今のところ、温暖化による水産物への影響は目立っていません。温暖化にたいして、将来的に対応しなければならない大きな課題だと考えています。欧州を中心に、海上養殖の餌や排漬物による汚染が問題となっています。海面養殖には適した漁場が限られ、欧州の環境規制でこの先の大きな増産が難しい状況にあるのです。その解決策が、陸上養殖です。陸上養殖は海水を使わないので、魚の病気の防疫対策がしやすくしやすいことがメリットになります。陸上養殖のサーモンは、通年出荷が可能になり、安定した供給ができるメリットもあります。ノルウェーは魚の扱い方や鮮度管理などは、日本を手本に学んできました。今では、その日本を凌駕する技術を身に付けているようです。養殖技術は日々進歩していますが、資源管理の強化は将来に向けた課題になっているようです。
日本も、農林水産物の輸出には力を入れています。日本の農産物の輸出は、1兆円に近づいています。日本の農産物の輸出の中で最も多い品目が、ホタテ貝なのです。和牛肉の247億円やリンゴ140億円をはるかに上回る477億円となっています。ホタテ市場は、年々消費が増加しており、その値段も高騰していく傾向が続いています。サーモンと似たようなグラフをえがいています。一定量の質の高いホタテを生産すれば、確実に売れる市場が世界にあるのです。価格の高騰を受けて、全国各地で陸上養殖に取り組む組織や企業が増えているようです。ホタテ養殖をしている北海道の佐呂間漁協組合員の年収は、5千万円を超える所得になっています。この漁協組合員の平均貯金額は、2018年に1億5千万円を超えたとも言われているのです。もっとも、漁獲が安定し、裕福になったのは平成になってからだということです。それまでは、苦労の連続だったようです。
この漁協は、毎月の会議で漁業者が意見を出し合いながら、サロマ湖の管理をしてきました。組合員は、サロマ湖を持続可能な養殖場に育ててきました。稚貝の放流や流氷対策、そして漁獲ルールの策定を行ってきたのです。ホタテは、稚貝から成長するまで4年かかります。ホタテ貝は、海水中のプランクトンを食べて成長します。植物プランクトンは、太陽光を浴びながらリンや窒素などの栄養塩を吸収して育ちます。サロマ湖の海域には、アムール川からオホーツク海に運ばれてくるフルボ酸鉄が豊富なのです。このフルボ酸鉄が、植物プランクトンを豊かに育てる原動力になります。サロマ湖に設置したセンサーから水温や塩分濃度などのデータが、スマホに届きます。この湖水の様子を把握し、良く育つようイカダの場所や貝をつるす高さを調節していくわけです。サロマ湖を酷使することなく、養殖場を適正に維持する努力を重ねてきたのです。その成果としての豊かな地域があるわけです。
最後に、さらに、豊かになる仕組みを考えてみました。ノルウェーにしてもサロマ湖の地域にしても、このまま繁栄が続けることは難しいようです。温暖化や他国との競争があります。その対策として、優秀な人材を育て、もしくは補強しなければなりません。そのためには、地域としての資金が必要です。天然魚や海上養殖魚だけでは、自然の変化に対応できません。陸上養殖や他の稼ぐ仕組みを作ることになります。その仕組みを作る人材が、必要になります。今ある余剰の資金を、再生可能エネルギーに投資しておくことも選択肢になります。たとえば、500kwの発電規模ですと、年間の売電収入が大体7300万円くらいになります。500kwの発電規模で、工事費はダムの形や状況などによりますが、約7億円と推測されます。現在の余裕ある資金を、再生可能エネルギーに投資し、その利益を人材投資に使うことも面白かもしれません。