アメリカのカリフォルニア州では、干ばつでアーモンドの生産が落ち込んでいます。アーモンドの世界生産の80%は、アメリカが占めています。特に、カリフォルニア州の生産は突出しているのです。この流れを見ている日本の業者の方は、「早ければ10月から日本の流通価格も上昇しそうだ」と漏らしています。干ばつや豪雨が、野菜や果物の値段を左右することは、今年の日本でも経験してきたことです。日本国内の年間潅概用水使用量は、570億㎥になります。コメ1トンを生産には2650㎥の水が必要になります。小麦の場合、コメの半分程度の水が必要です。日本は、食物自給率が39%と多くの穀物を輸入しています。穀物の輸入に伴い、その作物を栽培するために使った水を仮想水といいます。日本の仮想水の総輸入量は、年間640億㎥にも達しているのです。ここに、心配事があるのです。もし、日本に大量の農産物を輸出している国で、深刻な水不足が起きた場合どうなるのでしょうか。カリフォルニアのアーモンドのように、値上がりが避けられないことになります。輸出国の水不足は、日本への輸入量の減少や値段にも大きな影響が出ることが予想されます。そして、その予想は現実味を帯び始めているわけです。
ブラジルは、電源構成の70%弱を水力発電が占めています。そのブラジルが、100年ぶりの水不足に見舞われているのです。電気が不足すれば、経済活動が停滞します。それを補うために、火力発電を使うことになるわけです。この代替燃料として、液化天然ガス(LNG)の使用が増えています。現在、ブラジルは月あたり通常より50万トン多いLNGを輸入しています。ブラジルの50万トンの輸入増加が、世界のLNG価格の上昇要因にもなってきました。遠い国のブラジルの水不足が、日本にも無視できないレベルになっているのです。水不足が、農業だけでなく工業へも影響をあたえることがわかります。当面、日本が注意を払う国があります。農産物の輸入先とその輸入割合は、アメリカ25%、中国12%、オーストラリア7%、タイ7%、カナダ6%になります。これらの国々の水不足は、日本に大きな影響を与えることになります。ちなみに、主な輸入5国のうち深刻な水資源が懸念されている国は、アメリカ、中国、オーストラリアになります。気候変動で世界各地が異常気象に見舞われるなか、水不足はどこにでも起こりうるということになります。
世界では、水がグローバルリスクであると認識されています。水のリスクは人類の持続可能な開発に対して、深刻な阻害要因となるとされているのです。地球全体の水資源の残存量は、地球上を循環する水のうち全海洋へ流れる河川水の流出量になります。この河川流出量は、年間約4万K㎥と推計されています。この4万K㎥のうち、世界の人々は10%程度を利用しています。1995年世界の年間水資源取水量は3800k㎥で、2025年には4300~5200k㎥に達するとされています。でも、約6億人あまりの人々が、安全な飲み水を容易に確保できない現状があります。これらの人々は、生活に必要な水を得るためだけに多くの時間を費やしています。そして、その水の確保をする人たちは、女性や子ども達が大半なのです。この6億人あまりの人々は、安全な水を住居から1km以内で確保することが困難な状態にあります。世界の人口は、2050年に2019年比で26%増の97億人になり、水需要は2000年比で5割増えると予想されます。この予想が通り進めば、総人口の4割にあたる39億人が恒常的な水不足に陥るとみられるのです。
水不足は、加速する気候変動や都市化を背景に進んでいきます。水不足に拍車をかける要因が、人口増や急速な都市化によるということです。水が少なくなり、不便を感じることを、水ストレスと言います。国連機関は、水ストレスが「高レベル」になる国や地域は2020年には10増えて59の国や地域になると発表しています。水需給のひっ迫度合いを示す水ストレスが、「高レベル」になる国や地域が増えるというわけです。水ストレスの「高レベル」の中には、米国やベルギー、イタリアといった先進国も含まれるのです。「安全な水とトイレを世界中に」は、SDGsにおける目標の一つになっています。ゲイツ財団は、安価で下水を使わないトイレの普及に取り組んでいます。この財団は、排せつ物を飲用水に変える技術の開発に取り組んでいるのです。上手くいけば、日本の江戸時代のように、水と排泄物と作物の循環をつくることができるかもしれません。
歴史上、中央アジアでは水資源を巡る衝突は繰り返されてきました。キルギスやタジキスタンでは、水が奪われるとの不信感から、住民同士の投石合戦が始まり、治安部隊の衝突になる事件がありました。キルギスやタジキスタンの人々は、自国を通る水資源が他国の経済発展に使われると不満を抱いているのです。水を巡る争いが発生するのは、降雨量の少ない中央アジアや中東だけではありません。アメリカ国境に近いメキシコ・チワワ州で、2020年9月に数百人の地元農民がダムを占拠する事件がありました。アメリカとメキシコ両国は、1944年の条約で毎年数十億ガロンの潅概用水を供給し合っていたのです。ところが、昨年の記録的な干ばつでダムの水量が大幅に低下しました。アメリカへの水供給を阻止しようとした農民と治安部隊が衝突し、女性1人が死亡したのです。2000~19年に世界で起きた水に関わる紛争や暴力事件は、700件近くにのぼっています。特に、気候変動が顕著になってきた2010年以降に、水紛争が急増しているのです。
台湾では2021年2月、水不足で半導体生産を抑えるとの懸念が強まりました。半導体製造には、大量の水が必要になります。干ばつなどで水不足は深刻になっており、半導体生産などにも影響を及ぼす可能性があります。景気回復の流れが出てきている中、半導体などの工業用需要が急増してきています。半導体で使用する水は、高品質のものになります。たとえば、三重県に半導体の新工場を建設しています。そこでは、純度の高い超純水の製造施設も必要になります。国連によると、取水された水の1割程度が工業用に使われます。7割は農業向けになります。このような異常気象が頻発すれば、水不足を招き、食料価格上昇や工業製品の不足につながると心配されているわけです。常に安定した量の穀物を生産するためには、水の安定的な供給が欠かせない要素になるわけです。
水不足やきれいな水を求める人が増えれば、そのニーズはビジネスチャンスを産むことになります。きれいな水を供給する企業や技術への注目度が高まっています。この種の技術を持つ日本企業は、東レ株式会社になります。東レは、中国に研究所を持っています。中国の東レ研究所は、水処理膜事業の拡大に貢献しているのです。中国では都市ごとに水の成分が異なり、多くの水質汚染問題を抱えています。これらの多様な水を、きれいな水に処理する技術は、現地でなければ効率的にできません。東レは、微生物と浸透膜を併用して水の浄化性能を高める技術を作り出しています。日本にない水資源を研究対象にすることで、世界最先端の研究が可能となったともいえます。日本の優れた技術で、ビジネスを成功させていきたいものです。