アフリカの地方における伝染病が、世界を恐怖に陥れた事件がありました。エボラ出血熱が、一地方を越えて広がったのです。これに感染すると死亡率50%という高い確率で命を落としていきます。この時、世界の各国は感染症を用いたテロも念頭に、エボラ出血熱に真剣に取り組んだようです。エボラを細菌兵器とするテロが、可能になることを想定したのです。自爆テロリストがエボラ出血熱にあえて感染し、ターゲットとする国や地域に入国します。感染したテロリストが、都市部などの人が集まる場所を動き回ります。意図的に感染して死んでいけば、感染は一挙に拡大するシナリオを想定したわけです。この時は、最悪の結果を招かずに、エボラ出血熱の流行は収束しました。
でも、細菌兵器の開発や利用は、現在もも進められていることは常識とされています。その事例が、旧ソ連(現在のロシア)に見ることができました。旧ソ連では、病原体を合体させたり、遺伝子を改変したりして、生物兵器を作ろうとしていました。二つの全く異なる病原体を組みあわせて、より強力な病原体を作る研究が行われていたのです。ペスト菌は、抗生物質を投与すれば、治療効果が現れます。菌の中には、抗生物質を投与すると、活性化するものあるのです。ベネズエラ馬脳炎ウイルスは、馬に感染し、脳脊髄脳炎を引き起こします。人にも感染する厄介な病気です。この病気は、抗生物質を投与すると活性化し、脳脊髄脳炎を進行させてしまうのです。
このペストとベネズエラ馬脳炎ウイルスを合体させた新しい病原体に感染した場合、ペストの治療で抗生物質を使えば、ベネズエラ馬脳炎ウイルスが活性化し、脳脊髄脳炎が悪化します。ペストの治療をしなければ、ペストで死亡することになります。この合体した菌に感染した人は死ぬという仮説を、サルを使って実験したのです。ペストの治療をした場合も、しない場合も、サルたちは死亡していきました。仮説は、実証されたわけです。旧ソ連で行われた実験は、条約上禁止されています。でも、確実に各国は研究を進めていると考えることが常識のようです。この研究は負の側面ですが、正の側面に変わる可能性もあります。ペストとベネズエラ馬脳炎ウイルスを合体させた病原体を、ペスト患者やベネズエラ馬脳炎患者に投入すると、二つのの毒性が消去されてしまうという研究に変わるかもしれません。合成生物の技術が生物兵器への転用されるという二面性は、科学の宿命ともいえるものです。感染症の予防や治療と生物兵器の開発はメダルの表と裏だともいえます。できるだけ、表の研究に予算を投入してもらいたいものです。