TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」183

2017年02月21日 | 物語「水辺ノ夢」

仕事の帰り道。
圭は夕暮れ時の道を一人歩く。

あれから数日経つ。

次に悟に会えば何を言われるのか、と
避けるように行動しているが
特に何かの催促はない。

このまま、事が落ち着く様に
祈る事しか出来ない。

気もそぞろになるので
仕事もはかどらない日が続いている。

「……」

1つため息をつく。
もう自宅も近い、
いつものように過ごさねば。

ふと目を向けると
真都葉が窓から顔を出している。

「真都……」

声を掛けようとして
圭はそれを止める。

真都葉は空を見ている。

「とりさーん」

真都葉が手を振る。
近くの止まり木に
鳥がやって来る。

「良かったわね、真都葉」

真都葉が窓から顔を出せたのは
杏子が抱き上げていたから。
二人は、嬉しそうに鳥を見上げている。

圭の頭が真っ白になる。

「あら、おかえり、……圭!?」

圭はただいまの言葉もなく、
家の中へ駆け込む。
驚く杏子を横目に奥の納戸へ向かう。

自然と足音やドアの開け閉めが大きくなり
杏子は真都葉を下ろし、
圭の後を追う。

「そんな物、何に」

圭はボウガンを取り出す。
祖母がかつて狩りで使っていた品。
圭も一度だけの狩りに持って行った事がある。

「真都葉を離れた所に」

圭はそれだけ杏子に告げ、
窓を開ける。

「とう?」
「圭、まさか」

圭はボウガンを構える。
矢は鳥に向いている。

「止めて圭!!」

杏子の声も聞こえない。
ただ、驚くほど静かに
圭は狙いを定める。

あの鳥さえ居なければ。

矢が、放たれる。

「なんてこと」

そんな杏子のつぶやきと共に
真都葉の泣き声が響く。



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