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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」123

2016年01月05日 | 物語「水辺ノ夢」

南一族の村を歩いていた湶は
村人に呼び止められる。

「湶くん、
 お父さん達、帰ってきていたわね」

買い物の帰りだった彼は
思っても居なかった言葉に
思わず動きを止める。

「帰??……今??」
「さっき、西一族の村から来た馬車を
 降りていたのを見かけたわよ」
「明後日の約束だったのに。
 予定を早めたのかな」

湶はため息をつく。
母親のせっかちな性格を考えれば
それも頷ける。

もう少し、弟の所に残っていると
思っていたが。

「荷物も多いだろうに」

今からでも間に合うだろうか、と
馬車乗り場の方へ背を向けた湶に
そうそう、と
思い出したように村人が言う。

「そう言えば、湶くん、
 弟さんが居るって言っていたわね」
「えぇ」

なぜ、今、その話なのだろう、と
湶は首をひねる。

「すぐ分かったわよ。
 弟さんはお父さんそっくりなのね」

湶くんはお母さん似だけど。
でも、良かったわね、
ずっと一緒に暮らしたいって言ってたから。

そう村人は続けるが
湶はその話に集中できない。

「弟が、来ている?」


村人にあいさつを済ませると、
湶は足早に馬車乗り場へ向かう。

湶は、西一族。
本来ならば、この南一族の村に住んでいるのはおかしい。
家族で移住してきた、というのは表向きの理由だ。

西一族の村長は
かつての東一族との争いを境に
各地に諜報員を放っている。

各一族の動きを探るため。
西一族の村を守るため。

移住と言う形で
長期にわたって諜報を続けている湶の一家は
諜報員の中でも特殊な部類に入る。

南一族と西一族の間には
大きく敵対する理由もなく
比較的有効な関係を築いているからだ。

「……一体どういう事だ?」

半ば走るような形になりながら
湶は思いを巡らせる。

仕事上の移住とはいえ
敵対するはずのない村での
長期の生活に
いつか裏切るのではないか、と

西一族の村には
湶の弟と今は亡き祖母が残された。
早い話が人質だ。

だから、弟が来ているというのは
何か話が変わってきている証拠だ。

それに。

「そんな訳、ないだろ」

村人の見間違いではないか、と
それを確認するためにも
湶は急ぐ。

「あ」

南一族とは少し違う
白色系の髪色を見つけて
声をかける。

「父さん、母さん!!」

馬車乗り場から南一族での自宅へと向かう道で
湶はやっと彼らに追いつく。

「湶か、
 すまん、予定が変わってな」
「おかえり、
 ごめん、うちの中散らかったままだよ」
「もう心配していた通りじゃない。
 だから男の一人暮らしは心配なのよ」

普段なら笑顔で帰すところだが
湶は、肩で息をしながら
両親の後ろを歩いていた弟に声をかける。

「……圭。
 お前も、来ていたんだな」

湶にとっては大事な弟だ。
長い間離れて暮らしていて
一緒に暮らせたら、と
それは、確かに思っていた事だが。

湶は辺りを見回す。

弟が、
圭が来ているのならば
もう一人いないとおかしいのだ。

「なあ圭?」

だが、その姿は見えない。


「杏子は、どうしたんだ?」


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