TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」97

2014年09月02日 | 物語「水辺ノ夢」

「何か用事?」

横になって居た圭は、起き上がりそのままベットに腰掛ける。

「―――悪い、寝ていて良いんだぞ」
「いいよ、そんなに酷いわけじゃないし、
 横になりすぎて眠くもないし」

それで、と圭は目で促す。

「あぁ、今、高子が来ているから
 調子が悪そうなら
 お前も見て貰えば良いかと思ったんだけど」

そこで一度、湶は言葉を止める。

「その調子じゃ、大丈夫そうだから
 余計なお世話だったな」

そのまま、湶が部屋の椅子に腰掛けたので
もう少し自分と話すつもりなのだと分かり
圭は湶に問いかける。

「……杏子、具合悪いの?」

そうは見えなかったけど、という圭に。
湶は一瞬きょとんとして見せる。

「……あぁ、大丈夫だろう。
 心配するような事では無いと思うよ」
「でも」

杏子は自分と違って何の病も持っていなかったはずだ。

「定期健診だろうから、安心しろよ。
 まぁ、父親としては心配だろうけど」

え?と圭は言葉を止める。
その様子に湶は初めて圭との食い違いに気付く。

「……あの子、妊娠してるよな?」

「「……」」

圭が完全に言葉を無くしてしまった所に
追い打ちを掛けるように湶が言う。

「気付いて無かったのか?!」

「…え、だ、誰の!!??」
発作でも起こさんばかりの圭の慌て様に、
逆に湶が焦り始める。
「お前以外に誰が居る。
 ちょっと落ち着け!!」

「―――俺?」

「心当たり、無いのか」

つまり、そういう事を、と言う湶に
圭は、う、と言葉を詰まらせる。

「……それは、まぁ、その」

やっと、納得がいき、少し落ち着いた圭に
湶はほっと息をつく。

「お前が最近体調悪そうだったから
 あの子も言い出せなかったんだろう」

俺も直接聞いた訳じゃないから、と湶は言う。

「でも、少し辛そうだから、
 気には掛けてやれよ」
「つらそう?」
あぁ、と湶は頷く。
「料理とか濃い匂いがきつそうだったな
 つわり、だっけ?」

気がつかなかった、と
圭は聞かされて初めて気がつく。

「じゃあ、俺、ばあちゃんの所に行ってくるから」

湶はそう言って席を立つ。

「お腹の子供の事はお前から報告してやれ、
 ばあちゃん喜ぶぞ」

おめでとうな、と湶は部屋を出て行く。

一人残された圭は呟く。

「……妊娠してる、って」

全然気が付かなかった。
辛そうだと言う、そんな様子も分からなかった。

湶の言葉を思い出す。

「そんなに、俺、
 言い出しにくかったのかな」



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