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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」98

2014年09月05日 | 物語「水辺ノ夢」

「圭は、部屋で寝ているのね」

高子の言葉に、杏子が頷く。

「ご家族のことで、体調がすぐれないみたい」
「そう」
「おばあさまのことと、」
「・・・湶のことね」

高子は、診察道具をしまう。

「短い間に、いろんなことがあったから、気持ちもついていかないんだわ」
「短い間・・・」

ふと、杏子は自分のことを考える。

もう
ずいぶん長いこと、圭と暮らしているようだけれど

思い起こせば、

まだ五か月。

五か月前、自分は、恋人の光の隣にいたのだ。

圭だけじゃない。
自分も、短い間にいろいろとあった。

これからも
この西一族の村で、東一族の自分には、いろいろあるんだろうな、とも。

杏子は、ふとお腹を触る。

その様子を見て、高子が云う。

「お腹の子は順調よ」
「・・・ありがとう」
「圭の心配ばかりしないで、自分も大切にして」
「ええ・・・」

高子は立ち上がる。

「もう少ししたら、子どもの性別も見てあげるわ」
高子が云う。
「圭と一緒に、うまいこと病院に来て」

「あ、・・・うん。」

「外に出るの不安?」

「いえ・・・」

杏子の様子を見て、高子が首を傾げる。

「ひょっとして、まだ、圭に子どものこと云ってない?」

杏子は、高子から目をそらす。

「云ってないのね?」

高子は息を吐く。

「今は、まだ・・・」

「何を云っているの」
高子が云う。
「とにかく、圭に云うのよ」

じゃあ、と、高子は部屋を出る。

ひとり残された杏子は、うつむく。
もう一度、お腹を触る。


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