「圭の……お兄さん?」
杏子は戸惑う。
「そう。4つ年上なんだ。
それにしても、圭が結婚か。
俺、先超されたなー」
へぇ、と彼は感心した声を上げる。
「……あ、私、お茶を」
「え、いいよ気を遣わなくても」
「いいえ」
台所に駆け込みながら、どうしよう、と杏子は考える。
本当に彼の言葉を信じて良いのだろうか。
確かに彼からは、
他の西一族が杏子に向けるような敵対心や
厳しい態度が感じられない。
でも。
ばたん、と扉が開く音がして杏子は我に返る。
彼が出て行ったので無ければ、
きっと、圭が帰って来た音。
杏子は玄関の方へ身を乗り出す。
家の中に居る西一族に圭が呆然とした表情を浮かべている。
「……圭!!」
杏子の声に、圭ははっと、そちらを振り向く。
「杏子、こいつ……誰?」
その言葉に彼が立ち上がる。
「圭、か!!
俺だよ、ほら、分かるか?」
「え?」
「湶(イズミ)だよ!!
会うの久しぶりだから戸惑うだろうけどさ」
湶と言った彼は嬉しそうに圭に近寄る。
「い…ずみ?」
「お前の兄貴だよ。十四年ぶり?」
「兄?」
「俺に、兄なんて……いないです」
そう、杏子がどうしよう、と戸惑っていた理由。
杏子は圭から
祖母以外の家族の存在を聞いていない。
「杏子!!」
圭は彼ではなく、杏子に言う。
わけが分からない、そんな声で。
圭の手には沢山の荷物が抱えられている。
きっと、食料や衣類、杏子のために買ってきた物だ。
そんな、圭が、杏子に言う。
「誰なんだよ、こいつ」
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