TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」93

2018年08月07日 | 物語「約束の夜」


「今頃、満樹達は
 なんか、キャッキャウフウフしながら
 水遊びとかしてそうな気がする」

ぴーん、と。

よく分からない第六感で
東一族の村の様子を感じながら
京子は馬車乗り場に立つ。

「北一族の村までの馬車には
 まだ時間があるわね」

待合所にある丸太を置いただけの椅子に腰掛ける。
少し早く着きすぎた。
ついでに言うと
出発はもう数日遅らせても充分間に合う。

けれど。

「旅立ちの挨拶?誓い?宣言?
 早くしずぎたわ!!」

母親と
『止めても行くのでしょう』
『必ずお兄ちゃんを見つけて帰ってくるから』
『あなたの無事を祈っているわ』
『ありがとう、お母さん』
的な会話をして、数日。

言葉にはならないけど、
絶妙に流れる、

あれ?まだ居るの?
え?え?出発いつ??

というそんな空気感。

「確かに!!
 明日にでも旅立ちますな
 雰囲気を出しちゃったわよ」

居たたまれない感も含め
京子、少し早く出発します。

「あぁあ。
 もうちょい、季節的なイベントとか
 したかったなぁ」

季節あるのだろうか、
この水辺世界。

「海?とか
 夏休み?とか
 スイカ???とか」

「「「「……………」」」」

「まぁ、素敵な出会いってのも
 ありよね~」

満樹やツイナ、
あと、千との出会いはなんか違うらしい。

独り言、声にでまくりの京子の隣。

「「「「……………」」」」

北一族は市場の町として
人の出入りが多い。
もちろん、西一族からも沢山の人が向かう。

つまり、馬車乗り場は
実は京子1人ではなかった。

今回は、市場に西一族産の肉を
売りに出す若者達。

「京子のあれは何らかのメッセージだろうか」

少し離れた場所で
ぽつりと呟く広司。
今回市場へ初参戦。

「大丈夫だ、
 あれは無意識にあふれ出ている言葉であって
 俺達への圧力ではない」

答えるのは、今回の班長、誠。

「私は京子のそういう所、良いと思うわ」

うんうん、自分に正直って
誇れる事よ、と、副班長、直子。

「そうだ、俺達は
 決して気にしなくて良いんだ」

今回出荷する肉は干し肉にしている。
それをとりまとめた大きな荷物を抱えている、透。

「だから、な、広司。
 お前は何も考えずに、
 それを持っておくんだぞ」

向かった北一族の村で
出店を出すだろう。
そんな時、休憩がてらみんなで食べようね、と
広司が抱えているのは。

「やっぱり、今の時期と言えばスイカだなぁ」

そう、スイカ。

決して、広司達の方を見ているわけではない。
馬車の到着を待ちながら
京子がうーんと伸びをする。

「なんか急にスイカ食べたくなったな。
 なんでだろ?」

きっと、さっき見かけたからだろうね!!!!

みんなが心の中でツッコミを入れる。

「…………っ!!」
「耐えろ、耐えるんだ広司」
「京子も意味があって
 言っている訳じゃないんだ」
「多分!!」
「あぁ、多分、悪気とかない、多分!!」

ふ、と
京子が小さくため息をつく。

「もしかして、
 このまま旅立っちゃったら、
 今年はスイカ食べられない、かな」

切なげ。

「~~~っつ!!」

どすどす、と
京子に向かって歩き始める広司。

「待て、広司」
「落ち着くんだ」

皆が止めるが、広司は言う。

「だって、あいつ。
 どうせ馬車も一緒だろ!!」

確かに。

「京子!!」
「ん?広司どうしたの??」

「そんなにスイカが
 食べたいのか!!?」

どーーっん。

目の前にスイカをかざしつつ
広司が問いかける。
横でうじうじ言われるよりは
今、みんなで分けた方がマシなのでは。と。

「え?わぁ!!
 ごご、ごめんね、声に出てた!?」

慌てる京子。

いや、モロに声が響いてましたよ。

「食いたいなら、
 今、ここで、割るぞ!!」

もやもやは、早めにすっきりさせたい広司。
うんうん、と
他の皆も頷くが。

「あ~、気持ちは嬉しいのだけど」

京子は言う。

「無いから食べたいなぁって思うのだけど。
 いざ、目の前に出てくると
 そうでも無かったわ!!!!!」

「…………」

「ごめんね、声かけてくれて
 ホントにありがと!!」

間。

「落ち着け広司!!
 どうどう!!」
「止めろ、たたき割ろうとするな。
 そっとスイカを下ろすんだ!!」
「京子!!
 広司の気持ちも考えて!!」
「ええええ?
 ごめんね、食べるよ!!!!」
「そんな!!偽りの!!
 気持ちはいらん!!!!」
「京子、もっと、心を込めて!!!」
「普段より格別のお心遣いを賜り」
「そう言うビジネス的な奴じゃなく!!!」

うん、と
そのメンバーの中では
割と付き合いの長い、班長・誠が呟く。

「俺は知っていたぞ。
 京子はそういう奴だ」



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