浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

L.カイエ編曲版「展覧会の絵」

2008年06月21日 | 忘れられた作品作曲家
ムソルグスキの「展覧会の絵」は洋琴作品として作曲されたものとばかり思ってゐた。しかし、作者本人も作品の内容から管絃樂で演奏すべきと考えてゐたやうで、その試みは完成せぬまま夭折してしまったらしい。要するに洋琴スケッチが残されたかたちで、R.コルサコフなどが作者の遺志を継いで管絃樂用に編曲を行って今日演奏されるやうになったといふのが真相のやうだ。

我等の近衛秀麿も以前にご紹介した「禿山の一夜」とともにこの組曲の編曲を手掛けてゐるが、その他にも最近のアシュケナージ版に至るまで、皆が好き勝手に編曲して楽しんでゐる。僕たちが一般に聴き親しんでゐるのはラヴェルが1922年にクーセヴィツキの依頼によって編曲した版だ。

当時、クーセヴィツキとボストン響が演奏権を独占してゐたやうで、ストコフスキは自らアレンジしてフィラデルフィア管と演奏してゐたといふ流れがあり、その延長にオーマンディの演奏があるといふことのやうだ。今日、聴いてゐるのは、クーセヴィツキのレコーディングから7年、ストコフスキからは5年遅れて発表された対抗バージョン(1937年版)である。

L.カイエは1891年仏蘭西生まれで、1916年よりフィラデルフィア管絃團に入団し、主席バス=クラリネット奏者として在籍するとともに、同團のお抱え編曲者として活躍してゐたやうだ。

ラヴェルの編曲が当たり前になってしまってゐるが、そもそもは露西亜音楽であることを忘れてしまってゐた。この作品の持つ露西亜の土臭さや中央亜細亜の一種東洋的な雰囲気を気付かせてくれたのは、今回のカイエ版だった。

オーマンディは1937年時点でも素晴らしいオケの統率力を聴かせてくれる。また、この時期の録音とは到底思へぬ素晴らしい復刻はさすがにBiddulphだ。しかし、オーマンディのLP時代の再録音は全てラヴェル編曲なので、カイエ版のレコヲドは貴重な存在だ。といふより、カイエ版のレコヲドなど、この演奏以外に在るのだらうか、僕は知らない。

下のラヴェル版の華やかな仏蘭西音楽とBiddulphの復刻によるカイエ版を聴き比べるのは結構愉しい。
ムソルグスキー:展覧会の絵
フィラデルフィア管弦楽団
BMGメディアジャパン

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盤は、英國BiddulphによるSP復刻CD WHL046。


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