梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

因果は巡る縞財布

2007年02月19日 | 芝居
「五段目」「六段目」は、<五十両入りの財布>をとりまく登場人物それぞれの運命が描かれています。
娘の願いを叶えたい一心の老爺、侍崩れの盗賊、仇討ちに加わりたい浪士。彼らが、たった一つのアイテムをめぐって翻弄される(結局は3人も死ぬのですから!)さまは、大げさにいえば<運命の力>なんでしょうかね…。

さて、かほど重要な小道具たる<財布>は、「六段目」の台詞にもあります通り縞柄になっておりまして、口を黒紐で縛るようになっている袋状のものでございます。小道具方には、この芝居専用の縞柄財布が数種類用意されておりまして、その中から主演者が好みで選ぶようになっています。
「五段目」でまず登場する与市兵衛が、本舞台で懐中から取り出し、遥か祗園の一文字屋へむかって押し頂くところを、背後の稲叢から定九郎が腕をニュッと突き出して奪う。驚く与市兵衛をズブリと斬り殺した定九郎は財布の中に手を突っ込み、「五十両」と勘定してニンマリ。懐にしまって帰ろうとするところを、勘平が猪と間違って撃ち殺す。撃ったのが人間とわかって動転した勘平は薬を持っていないか探るうちに財布を見つけ、迷ったあげくにこれを討ち入り参加のための資金にすべく持ち去る…。
「六段目」では、家に帰った勘平が着替える際に、懐からポロリと落ちるのを見つけて老母おかやが不審顔。あわてて取り繕う勘平に、お軽を引き取りにきた一文字屋お才が、昨晩与市兵衛に渡したものとそっくり同じ柄の財布を見せて事情説明。これに仰天した勘平は、自分が与市兵衛を殺したと思い込んでしまうのです。

さて…この物語に、<縞の財布>はいくつ用意すればよいと思いますか? お才が持っているものの他は、人から人へ巡り巡っているだけですから、ふたつだけでよいと思われるかもしれませんが、実はここに先人が練り上げてこられた工夫があるんですよ。すでにこの幕をご覧になった方は、各場面ごとに、財布がどう使われていたか、どういう状態になっていたか、思い返してみて下さい。そうすれば、果たしていくつ必要なのか、おわかりになると思います。これからご覧になる方は、財布の<紐>にご注目を…。

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1 コメント

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見ごたえ十分 (SwingingFujisan)
2007-02-20 02:28:44
19日拝見しました。見どころたっぷりで、非常に面白く、時間が許せばもう一度見たいくらいです。梅之さんもしっかりウォッチングさせていただきました。
地口行灯って楽しいですねえ。すっかりはまりました。
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