梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之博多日記・達陀は聖なる火

2008年06月06日 | 芝居
博多座初お目見得の舞踊劇『達陀(だったん)』が、大変盛り上がっております。
奈良に春を呼ぶ行事として名高い東大寺の<お水取り>に題を取ったこの作品、音羽屋(菊五郎)さんがお勤めの、僧集慶の若き日の恋も幻想的にからみながら、厳かな儀式のもようが再現されます。

何と申しましても、歌舞伎舞踊としては珍しい<群舞>が魅力でございます。“水”と“火”がせめぎ合い混じり合う様をみせるくだりや、降りしきる火の粉(に見立てた紙吹雪)の中で繰り広げられる出演者総出のフィナーレは、振りの斬新さや動きの激しさが、ティンパニやシンバルといった普段ではなかなか使われない楽器も交えたダイナミックな音楽とあいまって、観る者の心をいやがおうにも躍らせます。
そして名題下10名による<五体投地>の緊迫感! 体を大地に打ち付ける修行の様を、トンボで表現したものですが、ピラミッド状に並んだ僧たちが、次々と返ってゆくところでは、毎日お客様からの熱い拍手がおくられております。

私も、一度この『達陀』に出させて頂いたことがございますが、気持ちが高揚してくると申しましょうか、テンションがおのずと上がってくるのです。ことにフィナーレは、全員一丸で盛り上げてゆく一番の見せ場ですし、照明や紙吹雪、体にズンズン響く音楽の幻惑で、なんだかホントに涅槃を見たような…っと、これは思い込み先行没入型人間の悪い癖ですね。

菊五郎劇団ならでは、とも申せます、チームワークの『達陀』、博多の皆様のご記憶に、しっかり残ると思います。