梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

お馴染みの紋

2007年03月05日 | 芝居
歌舞伎の時代狂言には、源平の世界を描いたものが大変多うございますが、不思議と頼朝が出てくるものは少ないですね。弟の義経の方は、うってかわって引っ張りだこ、芝居の中でもまさしく<判官贔屓>されているよいうです。
さて、義経に限らず源氏一族の人々の歌舞伎における扮装につきものなのが、写真の<笹竜胆>です。笹とはいえど、これは図案化した竜胆の葉が笹に見えることからきた俗称で、笹+竜胆の花というデザインではありませんので念のため。
源氏の紋として古来から親しまれ、所縁の地鎌倉では市の紋章にもなっており、かくいう私も鎌倉出身でしたので、建物の外壁からマンホールの蓋の模様まで、いたるところでこの紋を目にしたものです。
ところが、研究家の調査によると、頼朝はじめ源家の棟梁が、この紋を使用したという確たる証拠はないそうです。当時は氏を表す<紋>という概念も生まれておらず、源氏は単に<白旗>が馬印で、いったいどこから<笹竜胆>が源氏のシンボルになったのか…。よくはわかっていないということです。

まあ史実はさておきまして、とにかく歌舞伎では、この紋を見れば、ああ源氏ゆかりの人なんだなとわかるくらい、あちこちの意匠に使われております。写真は師匠演じる義経が『鳥居前』から『大物浦』まで通して使用する小刀に描かれているものです。このほか今月では、太刀、陣羽織、『奥庭』で持つ中啓(扇)、それから頭に巻く金具付きの鉢巻き<鉢金(はちがね)>にも、この模様がついています。
この他、『奥州安達原』での八幡太郎源義家、『土蜘』の源頼光でも、衣裳、小道具などに<笹竜胆>は使われています。

というわけで、源氏の<笹竜胆>はメジャーな存在ですけれど、皆様平家の紋はすぐに思い浮かびますか? 『俊寛』で出てくる迎えの御座船の帆に大きく描かれた、<揚羽蝶>が正解でございます。