いよいよ明日に初日を控えての<初日通り舞台稽古>五連発。午前十一時より『時雨西行』『井伊大老』『関八州繋馬』『沓手鳥弧城落月』『伊勢音頭恋寝刃』という順番でした。
『時雨西行』では、師匠の着付けをお手伝いしましてから、次の『井伊大老』の、私の侍女役の化粧のために楽屋に戻らせて頂きました。兄弟子方に任せっぱなしにしてしまうのはなんとも申し訳ないのですが、舞台稽古はいつ何どき始まるかわからないもの。早めの用意をしておくのに、こしたことはないのです。…実は明日の初日からは、私の二つ目の出番『関八州繋馬』の軍兵と、この『井伊大老』の侍女の、出番と出番の間は三十分しかありません。『関八州~』の幕切れまで立役として舞台にいて、三十分後の『井伊大老』の幕開きには女形になって舞台にいなくてはならないのです。相当な<早ごしらえ>が求められるので、今日も何分で女形の化粧が仕上がるか、時間を計ってやってみましたら、八分で完成! これなら、軍兵の衣裳を脱いだり化粧を落とす時間や、侍女役の衣裳を着てカツラをかぶる時間を加えても、なんとか間に合いそうですが、その犠牲となった私の眉毛…。今朝全て剃り落してしまいました。
早くに化粧ができたおかげで、『時雨西行』は客席から拝見することができました。能の『江口』をモチーフにした、典雅で渋い味わいの長唄舞踊でございます。師匠は平成九年六月歌舞伎座で、すでに西行法師役をなすっていらっしゃいますが、今回は演出、装置、そして衣裳も大分変わっております。皆様には是非是非その目でお確かめ頂きたいものです。
『時雨西行』が終わって、次の『井伊大老』の舞台を作っている間に衣裳を着、かつらをかぶり、早めに舞台へ向かい、私たち侍女役の者たちが運んで並べる小道具の置き所、段取りを、井伊直弼役でいらっしゃる播磨屋(吉右衛門)さんやお静の方役の加賀屋(魁春)さんに伺ってからいざ本番。仕事はみんなテキパキできましたが、やっぱり難しいのは唄ですね。今日のダメ出しでは、二カ所ある唄の場面のうち、始めの方が調子が低い、ということ。ここは雛祭りに浮かれる陽気な気分を伝えなくてはならないので、高めの声で明るく唄わなくてはならないのですね。二つ目の方では、唄い出しはやや小さめに、だんだんとボリュームを大きくしてほしいということで、こちらは皆のイキを合わせるのが難しそうですが、明日から試行錯誤でやってみます! あとはいかに女形としての振る舞いをできるか。ウキウキした気分を出せるか、ですね。
さて昨日たっぷり稽古した『関八州繋馬』は、今日はノンストップで通しました。おかげで時間はほぼ本番通りになりましたが、各場でいろいろ改善点は残ったようです。私が出る第三場での立ち回りは、だいぶまとまりまして一安心ですね。私自身も失敗なく、落ち着いて勤めることができ、胸を撫で下ろしました。今回私はトンボを返ったりはいたしませんので、そのぶん形やイキに気をつけて参りたいと思っております。
『沓手鳥弧城落月』の「二の丸乱戦」。部屋子の梅丸もだいぶ慣れてきたようです。このお芝居のように、リアルな、速いテンポの立ち回り、まして刀を扱うものは、落ち着いて演じないと怪我や事故につながりかねませんので、慌てずに、余裕を持ってやってほしいと思います(今はまだ難しいかもしれませんが)。もちろん、こちらもどっしりかまえてからみます。…この場の立ち回りでは、<裸武者>の立ち回りが一番の見せ場になっております。さがり(褌)だけをつけた半裸の若武者石川銀八が、必死に敵と戦うものの、最後は空しく鉄砲に倒れる、というパートですが、今回は成駒屋(橋之助)さんのご長男、国生さんがお勤めです。長刀を得物に、奮迅の働きは迫力いっぱいです。
最後は『伊勢音頭恋寝刃』師匠がお勤めの料理人喜助についての裏の仕事に専念。長い出番はございませんし、後見が必要というわけでもないので、気は楽です。…そういえば、二年前の五月歌舞伎座では、師匠が主役の福岡貢でしたね。この時は成田屋(團十郎)さん病気休演による、公演途中からの出演でした。
このお芝居でも立ち回りがございます。貢が、妖刀青江下坂に惑わされるように、古市の遊郭油屋で次々と人を斬るー。下座唄に合わせて様式的に見せるこの立ち回りは、固定された演出はなく、貢役の役者によって、つまりは立師によって色々と違いがございます。共通しているのは、最後に血まみれ姿の二人の酔客を殺すこと。この二人を<血だるま>と呼んでおりますが、その通り体中に血糊をつけ、髪はザンバラ。かなりコワい格好です。今日のお稽古中、気がついたらすぐそばに<血だるま>役の方が立っていらして、ギョッとしました。
全体的にトントン進んだので、午後七時半過ぎには全ての稽古が終わり、ヤレ有り難やです。とはいえ明日からは毎日午前九時出勤、夜の部の予定終演時間が午後九時ですから、一日十二時間労働というわけで、覚悟をきめて取り組みます。一日劇場にいるので、面白いエピソードにも、多々出会えると思いますので、その都度ご報告いたします。
では、明日から始まる『六世中村歌右衛門五年祭 四月大歌舞伎』、皆様お誘い合わせの上、お出まし下さいますよう、心よりお願い申し上げます!
『時雨西行』では、師匠の着付けをお手伝いしましてから、次の『井伊大老』の、私の侍女役の化粧のために楽屋に戻らせて頂きました。兄弟子方に任せっぱなしにしてしまうのはなんとも申し訳ないのですが、舞台稽古はいつ何どき始まるかわからないもの。早めの用意をしておくのに、こしたことはないのです。…実は明日の初日からは、私の二つ目の出番『関八州繋馬』の軍兵と、この『井伊大老』の侍女の、出番と出番の間は三十分しかありません。『関八州~』の幕切れまで立役として舞台にいて、三十分後の『井伊大老』の幕開きには女形になって舞台にいなくてはならないのです。相当な<早ごしらえ>が求められるので、今日も何分で女形の化粧が仕上がるか、時間を計ってやってみましたら、八分で完成! これなら、軍兵の衣裳を脱いだり化粧を落とす時間や、侍女役の衣裳を着てカツラをかぶる時間を加えても、なんとか間に合いそうですが、その犠牲となった私の眉毛…。今朝全て剃り落してしまいました。
早くに化粧ができたおかげで、『時雨西行』は客席から拝見することができました。能の『江口』をモチーフにした、典雅で渋い味わいの長唄舞踊でございます。師匠は平成九年六月歌舞伎座で、すでに西行法師役をなすっていらっしゃいますが、今回は演出、装置、そして衣裳も大分変わっております。皆様には是非是非その目でお確かめ頂きたいものです。
『時雨西行』が終わって、次の『井伊大老』の舞台を作っている間に衣裳を着、かつらをかぶり、早めに舞台へ向かい、私たち侍女役の者たちが運んで並べる小道具の置き所、段取りを、井伊直弼役でいらっしゃる播磨屋(吉右衛門)さんやお静の方役の加賀屋(魁春)さんに伺ってからいざ本番。仕事はみんなテキパキできましたが、やっぱり難しいのは唄ですね。今日のダメ出しでは、二カ所ある唄の場面のうち、始めの方が調子が低い、ということ。ここは雛祭りに浮かれる陽気な気分を伝えなくてはならないので、高めの声で明るく唄わなくてはならないのですね。二つ目の方では、唄い出しはやや小さめに、だんだんとボリュームを大きくしてほしいということで、こちらは皆のイキを合わせるのが難しそうですが、明日から試行錯誤でやってみます! あとはいかに女形としての振る舞いをできるか。ウキウキした気分を出せるか、ですね。
さて昨日たっぷり稽古した『関八州繋馬』は、今日はノンストップで通しました。おかげで時間はほぼ本番通りになりましたが、各場でいろいろ改善点は残ったようです。私が出る第三場での立ち回りは、だいぶまとまりまして一安心ですね。私自身も失敗なく、落ち着いて勤めることができ、胸を撫で下ろしました。今回私はトンボを返ったりはいたしませんので、そのぶん形やイキに気をつけて参りたいと思っております。
『沓手鳥弧城落月』の「二の丸乱戦」。部屋子の梅丸もだいぶ慣れてきたようです。このお芝居のように、リアルな、速いテンポの立ち回り、まして刀を扱うものは、落ち着いて演じないと怪我や事故につながりかねませんので、慌てずに、余裕を持ってやってほしいと思います(今はまだ難しいかもしれませんが)。もちろん、こちらもどっしりかまえてからみます。…この場の立ち回りでは、<裸武者>の立ち回りが一番の見せ場になっております。さがり(褌)だけをつけた半裸の若武者石川銀八が、必死に敵と戦うものの、最後は空しく鉄砲に倒れる、というパートですが、今回は成駒屋(橋之助)さんのご長男、国生さんがお勤めです。長刀を得物に、奮迅の働きは迫力いっぱいです。
最後は『伊勢音頭恋寝刃』師匠がお勤めの料理人喜助についての裏の仕事に専念。長い出番はございませんし、後見が必要というわけでもないので、気は楽です。…そういえば、二年前の五月歌舞伎座では、師匠が主役の福岡貢でしたね。この時は成田屋(團十郎)さん病気休演による、公演途中からの出演でした。
このお芝居でも立ち回りがございます。貢が、妖刀青江下坂に惑わされるように、古市の遊郭油屋で次々と人を斬るー。下座唄に合わせて様式的に見せるこの立ち回りは、固定された演出はなく、貢役の役者によって、つまりは立師によって色々と違いがございます。共通しているのは、最後に血まみれ姿の二人の酔客を殺すこと。この二人を<血だるま>と呼んでおりますが、その通り体中に血糊をつけ、髪はザンバラ。かなりコワい格好です。今日のお稽古中、気がついたらすぐそばに<血だるま>役の方が立っていらして、ギョッとしました。
全体的にトントン進んだので、午後七時半過ぎには全ての稽古が終わり、ヤレ有り難やです。とはいえ明日からは毎日午前九時出勤、夜の部の予定終演時間が午後九時ですから、一日十二時間労働というわけで、覚悟をきめて取り組みます。一日劇場にいるので、面白いエピソードにも、多々出会えると思いますので、その都度ご報告いたします。
では、明日から始まる『六世中村歌右衛門五年祭 四月大歌舞伎』、皆様お誘い合わせの上、お出まし下さいますよう、心よりお願い申し上げます!