梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

怒濤の稽古 第三波

2006年03月30日 | 芝居
ますます稽古は忙しくなってきました。まず十二時から『時雨西行』、引き続いて『井伊大老』の〈総ざらい〉。『井伊大老』では五人の侍女役に、仕事を手早く済ますようにダメ出しが。物の出し入れに時間を取られて、芝居の流れの腰を折らないよう皆で気をつけます。唄は昨日よりは慣れましたが、まったくのアカペラですから、出だしのキーを揃えるのが肝心。邦楽器用の調子笛を使ってみようか、などと話し合っています。
『関八州繋馬』は午後二時より〈舞台にて総ざらい〉。こちらが本日一番の長丁場でした! 復活狂言ということもあり、まず大道具の確認から行われましたが、いろいろと変更が続き幕が開くのがだいぶ遅れました。さらに第一場が終わってからは役者間の段取りの手直しや音楽面のダメ出し、二場の装置を飾ったところで、初舞台の五代目玉太郎坊っちゃんの居所合わせ。通した後はまたダメ出し…と、「確認と反省」という、こういう稽古には絶対必要な過程を経るうちに、必然的に時間は経過するのでした。
そして第三場。メインの立ち回りの段取り合わせが、やはり大変でした。同時進行の二つのタテが、うまくシンクロするために何度も繰り返しました。合わせてシンを皆で担ぎ上げたりる箇所があるので、その稽古もありましたが、私はここで語るも恥ずかしい失敗をしでかし大反省です。…立ち回りの他にも、やはりここでも装置の手直しをしてから通しましたので、結果一時間半の舞踊が三時間余もかかってしまいました。しかしこれは一つの芝居を完成させるためには絶対必要な時間だったわけでございます。明日の〈初日通り舞台稽古〉では、さらに練り上げられると思いますし、私も同じ過ちは繰り返さぬようじゅうじゅう気をつけます!
さてこの稽古でかいた冷や汗脂汗も乾かぬうちに、今度は稽古場で『沓手鳥弧城落月』の<総ざらい>。短い出番ですが、初舞台となる梅丸は、当然ながら立ち回りなど初体験なわけですから、こちらでしっかりリードしなくてはならず気を使います。もう少し、手慣れてくればよいのですが。明日の<舞台稽古>で頑張りましょう。
そして『伊勢音頭恋寝刃』の<総ざらい>を終えてから、ものの二十分ほどの、午後七時半過ぎに『狐と笛吹き』の<初日通り舞台稽古>。とはいえ主演者方は衣裳のみ。化粧をしない形式で行われました。全五場の新歌舞伎、照明や音響、効果が沢山使われているのでその段取り合わせが事前に行われるのは先ほどの通り。私も桜の<散り花>をさせて頂いておりますが、この他蛍が飛んだり枯れ葉が落ちたり。皆々照明機材を吊るす<簀の子>に登っての、上からの操作となります。
このお芝居で大変なのは師匠の衣裳替え。各場が春夏秋冬に分かれておりまして、その都度師匠の衣裳が変わります。短い舞台転換時間での扮装替えは、今回は上手の舞台袖に<拵え場>を作りました。三人の弟子と衣裳さん、床山さん(今日は衣裳のみでしたからいらっしゃいませんでしたが)での総力戦です。
五年前に一度経験している演目ですので、そうドタバタすることはございませんでしたが、やはり忙しいことには変わりありませんでした。今日でこそ、各場が終わる度にダメ出しのための時間がもたれたので、なんとなく余裕があったものの、これがノンストップの本番になりましたらどうなりますやら。…すべてが終わったのは午後十時すぎ。いや~、長い一日でした!

大海の磯もとどろに寄せる波に打ち負かされそうな稽古は明日がクライマックス。五演目の<初日通り舞台稽古>がございますが、その全てに関わっているのですから…(つるかめつるかめ)。

前後いたしますが、本日午前中、青山霊園に伺いまして、歌右衛門の大旦那のお墓参りをいたしてまいりました。おりしも晴天、参道沿いの桜並木はちょうど見頃と咲き誇り、うららかな景色に心が和みました。やっぱり春は桜、ですね。