梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

自宅→新居→区役所→板橋→半蔵門→新居→自宅

2006年03月20日 | 芝居
本日無事に転入届を提出。新しい住民票も取得し印鑑登録も完了。ややこしい手続きはもうないでしょう。あとは肉体労働だけですね。
役所での用事が済んだ後は、板橋区立文化会館小ホールでの、「かさね」の下浚いです。本番は国立劇場の小劇場ですが、今日だけここの舞台を使ってのお稽古でした。<下浚い>は、歌舞伎のお稽古でいうところの<総ざらい>と<舞台稽古>が一緒になったようなものです。
舞台装置は飾りませんので、私が操作する、例の流れ寄る卒塔婆の仕掛けも取り付けられず、私が稽古着の格好のまま、手で動かして登場させました。ちょっと照れくさかったです。
今日舞台を拝見していて改めて思ったんですが、この「かさね」のタイトルロールである、腰元累。衣裳は鼠ぼかしに秋草、流水の縫い(刺繍)の振り袖着付をお端折りに着て、帯は<左矢の字>に締めますが、普通歌舞伎の舞台で矢の字結びの帯を付ける時は、いわゆる<作り帯>の状態、つまり、一本の帯はただ身体に巻きつけて後ろで縛り、その上にあらかじめ矢の字の形に作っておいたものを乗せてそれらしくみせる、ということをするのですが、こと累の場合は、着付けの時に、きちんと一本の帯から矢の字結びを結び上げるのですね。後半の与右衛門との立ち回りの中で、帯を解かれることになっておりますから、作り帯ではほどくことができないわけですね。
今日はたまたま坂東三津緒師匠の着付けを拝見させて頂くことができまして(着付け、そして後見は『先代萩』でお世話になりました中村歌江さんです)、衣裳さんがこの<矢の字結び>をするのを間近に見ることができました。体格にあった結びの幅になるように気をつけてらっしゃいましたが、例の結び目を解く時に、必要以上にほどけないように(よく時代劇のギャグで見る「あ~れ~」みたいなことになる)、コレが解けたら全部ほどける、という結び目には、見えないように紐で上から縛っておく、というような工夫があることを知りました。
他にも、やはり後半で、お端折を下ろしてお引きずりにするので、帯を解かずに裾を引けるように、腰紐の使い方や衣裳自体の端折り方にも、コツが沢山ありそうでしたが、これは一回見ただけではわかりませんでした。おりをみて、歌江さんに質問してみたいです。
どうも最近、八汐の着付けを勉強させてもらってから、女形のお役の衣裳にも、目が行くようになってしまって。立ち役のことも覚えることはまだまだあるのですけど…。
…そういえば、今日は約二十日ぶりに、師匠の舞台姿を拝見いたしました。

その後は国立劇場へ寄り、明日の茶話会の準備を少々。そうです、明日は『粗忽の釘』の本番です! この期に及んでまだセリフに苦労している有様で情けないです。やってみると、大工の亭主のイキが難しいんです。せっかちでおっちょこちょいなわけで、セリフもポンポンポンポン運びたいのですが、度が過ぎては聞き取りにくくなってしまうし、ゆっくり喋らなくてはいけない女房や隣の隠居までつられてテンポが速くなってしまうのです。役の切り替えとセリフのイキの切り替え。これができないとやってる本人も気が散ってしまっていけません。短く終わるようにしたのでセリフも減ってるんですから、いい加減台本を覚えきらなくては。明日昼過ぎまでは新居に閉じこもり、集中稽古です! まだまだ時間はある、ハズです…。

国立劇場から、新居に寄って再び作業をして、夕食もとってから今の自宅(書面上は住んでないはずの家)に帰りました。あちこち移動でちょっと疲れた一日でした。