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真相は暴かれるのか?にわかに強まる新型コロナ「研究所流出」説
(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
全世界をなお苦しめる新型コロナウイルスの発生源に関して、中国・武漢にある中国科学院武漢ウイルス研究所からの流出だとする説が改めて注目を集めている。米国ではバイデン大統領が政府情報機関に本格的な再調査を指示した。
すでに米欧の一部の科学者たちは、新型コロナウイルスは中国でそれ以前に流行したコロナウイルスに手を加えた産物だと結論付ける報告書を発表している。また、武漢ウイルス研究所で今回の感染症状に酷似した感染者が出ていたという報告もある。それらの動きが契機となって、研究所流出説が再燃している。
中国当局は研究所流出説を全面否定しているが、今後確証が認められれば、米中関係から国際情勢全般にまで重大な影響を広げる展開ともなりかねない。
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動物からの自然発生は考えられない 米国で新型コロナウイルスの発生源をめぐる議論が白熱してきたが、「コウモリのような動物に自然発生したウイルスが人間に感染した」という説が定着しつつあった。
ところがここに来て、その説に強い疑念が突き付けられている。
大手紙ウォール・ストリート・ジャーナル(2021年6月6日付)は、米国の2人の有力科学者ステーブン・クウェイ氏とリチャード・ミラー氏による「科学が武漢研究所からの流出を示している」と題する寄稿記事を掲載した。
両氏は、2020年2月に発表された米欧の6人の学者による共同研究論文をベースに、「研究所からの流出しか考えられないことを、科学が示している」と述べる。また、新型コロナウイルスの構造をみても、動物からの自然発生は考えられないと指摘していた。
ベースとなったのは、2020年2月に発表された、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に人工的操作の形跡があることを示す論文である。執筆者はB・コータード氏、C・バレ氏ら米国やフランスのウイルス関連分野の専門研究者6人だった。新型コロナウイルスが武漢で発生したことが世界に知られてから2カ月ほどの時期に、米国の国立衛生研究所(NIH)のサイトに掲載された。
その論文の趣旨は以下のとおりである。
・新型コロナウイルスが人間の細胞に侵入する際の突起物であるスパイクタンパク質は、中国で2002年から発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスのスパイクタンパク質と酷似しているが、一部に人工的な変更の跡がある。
・この人工的な変更は、既成のウイルスの感染力を高めるための「機能獲得」という作業だったとみられ、ゲノム編集の形跡があった。コロナウイルスに対するこの種の作業は研究所内でしか行えない。当時の武漢ウイルス研究所で同種の研究が行われていた記録がある。
この研究報告が今になって米国の国政レベルでも注目を集めるようになった。
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次々に指摘される研究所流出の可能性 科学者たちのこうした動きに関連して、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー(トニー)・ファウチ博士が実は「研究所流出」を知っていたことを示すようなメールの交信記録が明るみに出た。メールの交信記録は、メディアによる情報公開請求を受けて公表された。
ファウチ博士は、トランプ前政権、バイデン現政権の両方で新型コロナウイルス対策の責任者に任命された。ファウチ氏が同僚、部下、知人などへ送った大量のメールからは、武漢ウイルス研究所でウイルスが人工的に作られ流出したことを知っていたとみられる記述が見つかった。
以上の報告以外にも、最近になって新型コロナウイルスの「研究所流出」の可能性が次々に指摘されている。
アメリカ学界でウイルス研究の権威として知られるジェッシー・ブルーム、デービッド・レルマン両氏らを含む科学者18人は、アメリカの科学誌「サイエンス」に、「このウイルスの発生源は動物からの自然感染か、武漢のウイルス研究所からの流出かを決めるだけの十分な調査が実施されておらず、徹底した再調査が不可欠だ」と訴える書簡を送った。
5月13日号のサイエンスに掲載されたその書簡は、世界保健機関(WHO)が今年(2021年)1月から武漢などで実施した調査への反論でもあった。今年4月はじめに発表されたWHOの調査結果は、ウイルスの研究所からの流出の可能性をほぼ排除していた。だがブルーム氏らは「その根拠は不十分」だと断じ、研究所流出説にかなりの根拠があることを強調していた。
またフランスでは4月中旬、ノーベル生理学・医学賞の受賞者リュック・モンタニエ教授が「新型コロナウイルスは武漢の研究所でつくられた人為的なものだろう」と発言し、波紋を広げた。同教授はこのウイルスが同研究所から事故で外部に流出したという可能性を指摘していた。
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生物兵器開発の途中で所員が感染?
流出説の信憑性をさらに強める論考も出てきている。トランプ前政権で国務長官の特別顧問として新型コロナウイルス発生源の調査を進めていたデビッド・アッシャー氏による報告書である。
同氏は、生物兵器を含む大量破壊兵器の拡散防止や国際テロ対策の専門家だ。現在はハドソン研究所の上級研究員で、この5月に「中国政府の新型コロナウイルスの悪用に対する正しい対応」と題する報告書を同研究所を通じて発表した。
アッシャー氏はこの報告書で、武漢地域でのコロナウイルスの一般感染が知られるようになる直前の2019年11月頃に、武漢ウイルス研究所の所員3人が同ウイルス感染の症状に酷似した感染症にかかっていたことを、米国情報機関の情報として明らかにした。
アッシャー氏はそのうえで、「100%の証拠はないが、今回の新型コロナウイルスは、武漢の研究所で進めていた生物兵器開発の途中でウイルスがまず所員に感染し、その後、市街へと流出したことが確実だ」と述べる。また武漢ウイルス研究所でのSARSウイルス研究などに対して米国の官民から資金援助があったことも記している。
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メディアの論調も変化 米国ではコロナウイルスの発生源について政治党派性が議論を大きくゆがめてきた。中国の主張する自然発生説はバイデン政権やワシントン・ポスト、CNNテレビなど民主党支持の大手メディアによって支持された。一方、トランプ前政権や共和党支持層は研究所流出説に傾く傾向が顕著だった。
ところがここにきて、流出説を「陰謀説」として排除していた大手メディアも流出説の可能性を報じ、少なくとも米国政府として徹底調査する必要性を支持するようになった。
バイデン大統領はそのための政府情報機関による本格的調査の期限を90日と設定した。どのような調査結果が発表されるのか注目が集まっている。
古森 義久
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トランプ氏「中国に新型コロナの賠償を要求する時…最低10兆ドルは受けなければ」
ドナルド・トランプ前大統領が中国に新型コロナ損害賠償の名目で最低10兆ドル(約1101兆円)を受けなければならないと主張した。新型コロナの「武漢ウイルス研究所起源説」が提起された中、在任期間に主張していた「中国責任論」を具体化したものだ。
5日(現地時間)、ロイター通信などによると、トランプ前大統領はこの日、ノースカロライナ州グリーンビルで開かれた共和党全党大会で新型コロナウイルスが中国武漢ウイルス研究所から流出したという疑惑を既成事実化した。
また「新型コロナを引き起こすウイルスが中国政府の実験室から始まったという点を民主党と専門家たちも認めた」とし「米国を含んで全世界が中国に賠償を要求する時になった」と述べた。 同時に、新型コロナによる被害補償金として少なくとも10兆ドルを提示した。「(中国が)全世界に及ぼした莫大な被害に比べると、非常に少ない金額」とし、全世界が口をそろえて中国に被害補償を要求するべきだと促した。特に、中国に借金をしている国は集団で債務契約を取り消し、負債を避けて補償金に代える必要があると主張した。 在任中に中国に対する強硬政策を展開してきたトランプ前大統領は、ジョー・バイデン行政府がかつてよりさらに激しく中国に圧力をかけなければならないとも主張した。 中国に最高25%関税を課して貿易戦争を繰り広げていた彼は「米国が中国に100%の関税を課する準備をしなければならない」と話した。だが、バイデン行政府と民主党が中国に責任を問わずにいるとし「非常に気が小さく腐敗した」と主張した。 自身と対立してきた国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長にも言及した。トランプ氏は「ファウチ所長は良い人であり、立派な広報マンだが、立派な医師ではない」として共和党の「ファウチ所長解任論」に力を加えた。 最近、共和党は米国政府が中国武漢研究所に研究費を支援したことを受け、ファウチ所長が何度も立場を変えたとし彼を解任するように求めてホワイトハウスを圧迫している。ファウチ所長はトランプ行政府時代にも数回にわたって解雇の脅威を受けたことがある。 新型コロナの防疫が上手くできなかったという批判を浴びたトランプ前大統領は、最近浮上した新型コロナ中国起源説とともに、再び公式席上で声を高めている。先月26日には声明を通じて「私は早くからたびたび『中国ウイルス』に言及し、新型コロナの根源として武漢を名指した」として「これは最初から明確だったが、私は普段のように非常に批判を浴びた。もう全部、私が正しかったと言っている」として不満をぶつけたりもした。