又嘗謂侍臣曰、聞西域賈胡得美珠、剖身而藏之。有諸。曰、有之。曰、吏受賕抵法、與帝王徇奢欲而亡國者、何以異此胡之可笑邪。魏徴曰、昔魯哀公謂孔子曰、人有好忘者。徙宅而忘其妻。孔子曰、又有甚者、桀・紂乃忘其身。亦猶是也。
又、嘗て侍臣に謂って曰く、「聞く、西域の賈胡(ここ)、美珠を得れば、身を剖(さ)いて之を蔵(おさ)むと。諸(これ)有りや」と。曰く、「之有り」と。曰く、「吏の賕(きゅう)を受けて法に抵(いた)ると、帝王の奢欲に徇(したが)いて国を亡ぼす者と、何を以ってか、此の胡(こ)の笑うべきに異ならんや」と。魏徴曰く、「昔、魯の哀公、孔子に謂って曰く、『人の好(よ)く忘るる者有り、宅を徙(うつ)してその妻を忘れたり』と。孔子曰く、『又た甚だしき者有り、桀・紂は乃ちその身を忘れたり』と。亦猶是(かく)のごとき也」と。
賈胡 異国の商人。 諸 これ之於と同じ。 賕 罪を免れようとして金品を授受すること、賄賂。 抵 抵触。 徇 殉と同じ。
またあるとき、帝がお側の臣にむかって「聞くところによると西域の胡の商人は宝珠を手に入れると、わが身を割いてしまっておくと聞いたことがあるが、そのようなことがあるであろうか」と尋ねられた。側近は「あると聞いております」と答えた。すると帝は「役人でまいないを受けて刑に処せられる者や、帝王が奢侈に耽って国を亡ぼす者は、何をもってこの胡の商人の愚かしさと異なることがあろうか」と言った。魏徴の言うには「昔、魯の哀公が孔子に言うことには『ひどい物忘れをする男がいて、家を引っ越したとき、妻を忘れてきたそうだ』と。孔子はそれに答えて『もっとひどい者がおります。桀と紂は我とわが身を忘れてしまいました。』帝の先ほどのお言葉は、この孔子の言葉とよく似ております」と。
又、嘗て侍臣に謂って曰く、「聞く、西域の賈胡(ここ)、美珠を得れば、身を剖(さ)いて之を蔵(おさ)むと。諸(これ)有りや」と。曰く、「之有り」と。曰く、「吏の賕(きゅう)を受けて法に抵(いた)ると、帝王の奢欲に徇(したが)いて国を亡ぼす者と、何を以ってか、此の胡(こ)の笑うべきに異ならんや」と。魏徴曰く、「昔、魯の哀公、孔子に謂って曰く、『人の好(よ)く忘るる者有り、宅を徙(うつ)してその妻を忘れたり』と。孔子曰く、『又た甚だしき者有り、桀・紂は乃ちその身を忘れたり』と。亦猶是(かく)のごとき也」と。
賈胡 異国の商人。 諸 これ之於と同じ。 賕 罪を免れようとして金品を授受すること、賄賂。 抵 抵触。 徇 殉と同じ。
またあるとき、帝がお側の臣にむかって「聞くところによると西域の胡の商人は宝珠を手に入れると、わが身を割いてしまっておくと聞いたことがあるが、そのようなことがあるであろうか」と尋ねられた。側近は「あると聞いております」と答えた。すると帝は「役人でまいないを受けて刑に処せられる者や、帝王が奢侈に耽って国を亡ぼす者は、何をもってこの胡の商人の愚かしさと異なることがあろうか」と言った。魏徴の言うには「昔、魯の哀公が孔子に言うことには『ひどい物忘れをする男がいて、家を引っ越したとき、妻を忘れてきたそうだ』と。孔子はそれに答えて『もっとひどい者がおります。桀と紂は我とわが身を忘れてしまいました。』帝の先ほどのお言葉は、この孔子の言葉とよく似ております」と。