goo blog サービス終了のお知らせ 

寡黙堂ひとりごと

詩吟と漢詩・漢文が趣味です。火曜日と木曜日が詩吟の日です花も酒も好きな無口な男です。

唐宋八家文 韓愈 于襄陽に与うる書

2013-08-17 08:58:01 | 唐宋八家文
與于襄陽書
七月三日。將仕郎守國子四門博士韓愈、謹奉書尚書閤下。士之能享大名顯當世者、莫不有先達之士、負天下之望者、爲之前焉。士之能垂休光照後世者、亦莫不有後進之士、負天下之望者、爲之後焉。莫爲之前、雖美而不彰。莫爲之後、雖盛而不傳。是二人者、未始不相須也。然而千百載乃一相遇焉。豈上之人無可援、下之人無可推歟。何其相須之殷、而相遇之疎也。其故在下之人負其能不肯諂其上。上之人負其位不肯顧其下。故高材多戚戚之窮、盛位無赫赫之光。是二人者之所爲皆過也。未嘗干之、不可謂上無其人。未嘗求之、不可謂下無其人。愈之誦此言久矣。未嘗敢以聞於人。
側聞、閤下抱不世之才、特立而獨行、道方而事實、卷舒不随乎時、文武唯其所用。豈愈所謂其人哉。
抑未聞後進之士、有遇知於左右、獲禮於門下者。豈求之而未得邪。將志存乎立功、而事專乎報主、雖遇其人、未暇禮邪。何其宜聞而久不聞也。愈雖不材、其自處不敢後於恆人。閤下將求之而未得歟。古人有言、請自隗始。愈今者惟朝夕芻米僕賃之資是急。不過費閤下一朝之享而足也。
如曰吾志存乎立功、而事專乎報主、雖遇其人、未暇禮焉、則非愈之所敢知也。世齪齪者、既不足以語之、磊落奇偉之人、又不能廳焉、則信乎命之窮也。謹獻舊所爲文一重八首。如賜覽觀、亦足知其志之所存。愈恐懼再拜。

于襄陽に与うる書
七月三日。将仕郎守国四門博士韓愈、謹んで書を尚書閤下(こうか)に奉る。士の能く大名(たいめい)を享(う)けて当世に顕(あらわ)るものは、先達の士の、天下の望(ぼう)を負う者、これが前(さき)と為ること有らざるは莫(な)し。士の能く休光(きゅうこう)を垂れて後世を照らすものは、亦た後進の士の、天下の望を負う者、これが後 のち)と為ること有らざるは莫し。
これが前と為るもの莫くんば、美なりと雖も彰(あらわ)れず。これが後と為るもの莫くんば、盛んなりと雖も伝わらず。この二人なる者は、未だ始めより相須(ま)たずんばあらざるなり。然り而して千百載に乃ち一たび相遇う。豈上の人の援(たす)くべき無く、下(しも)の人の推(お)すべき無きか。何ぞその相須つことの殷(さか)んにして、而も相遇うことの疎(まば)らなるや。
その故は下に在るの人その能を負(たの)んでその上(かみ)に諂(へつら)うを肯(がえ)んぜず。上の人その位を負(たの)んでその下を顧みるを肯んぜず。故に高材には戚戚(せきせき)の窮多く、盛位には赫赫(かくかく)の光無し。
是の二人者の為すところは皆過ちなり。未だ嘗てこれを干(もと)めずんば、上にその人無しと謂うべからず。未だ嘗てこれを求めずんば、下にその人無しと謂うべからず。愈、此の言を誦(しょう)するや久し。未だ嘗て敢えて以って人に聞こえず。
側聞(そくぶん)す、閤下は不世の才を抱き、特立して独行し、道は方(ほう)にして事は実あり、巻舒(けんじょ)時に随わず、文武唯だその用うるところなりと。豈愈の所謂(いわゆる)その人ならんか。
抑々(そもそも)未だ後進の士の左右に遇知せられ、礼を門下に獲(と)る者有るを聞かず。豈これを求めて而も未だ得ざるか。将(は)た志を、功を立つるに存し、事主に報ゆるに專(もっぱ)らにして、その人に遇うと雖も未だ礼するに暇(いとま)あらざるか。何ぞその宜しく聞くべくして而も久しく聞かざるや。愈不材なりと雖も、その自ら処(お)るや、敢えて恒人(こうじん)に後れず。閤下将(は)たこれを求めて未だ得ざるか。古人言(げん)有り、請う隗(かい)より始めよと。愈、今や惟だ朝夕の芻米僕賃(すうべいぼくちん)の資を是れ急とす。閤下が一朝の享(きょう)を費やすに過ぎずして足るなり。
如(も)し吾が志は功を立つるに存し、事は主に報ゆるに專(もっぱ)らなり、その人に遇うと雖も、未だ礼するに暇あらずと曰わば、則ち愈の敢えて知るところに非ざるなり。世の齪齪(そくそく)たる者は、既に以ってこれに語(つ)ぐるに足らざるも、磊落奇偉の人の、また聴くこと能わずんば、則ち信(まこと)なるかな命(めい)の窮せるや。
謹んで旧(も)と為(つく)りしところの文一十八首を献ず。如(も)し覧観を賜わば、亦たその志の存するところを知るに足らん。愈、恐懼再拝。


将仕郎 中央の官位、九品下で最も低い。守国子 守は位階の低い者が高い職に就いたとき付ける。国子 国子監。 四門博士 国立大学教授、正七品上の位。 休光 大きな手柄、うるわしい光。 高材 優れた人材。 戚戚 うれえること。 盛位高い位。 赫赫 輝かしい。 不世 不世出、まれな。 巻舒 進退。 遇知 めぐあい認められる。 礼を門下に獲る 門下に召し抱えられる。 恒人 並みの人。 芻米 まぐさと米、食糧。 僕賃 家僕の給料。 一朝の享 一度の朝食。 齪齪 こせこせ。 磊落奇偉 小事にこだわらずすぐれること。 

 七月三日。将仕郎守国四門博士韓愈、謹んで書を尚書閣下に奉ります。士が大きな名誉を受けてその時代に知られるには先達の士で天下の声望をになう者が先導となるものです。
士が大きな功績を立てて後世に名を残すのは亦後進の士で天下の声望をになう者が後継ぎとなるものであります。
 先達となる人がなければ、優れた才能を持っていても世に知られません。また後継者となる者がなければ、功績が大きくとも、後世に伝わりません。この先達と後継者は互いに必要とし合っているのであります。そしてこれは千年百年に一回ほど稀に出会うものであります。おそらく上の者の引き上げがなく、下の者の押し上げが無いかでありましょう。何と相俟つことの大なるに比べて相遇うことの稀なことでしょう。
 その理由は下位の人は自分の才能をたのんで上に取り入ろうとせず、上の人は地位を頼って下の者に目をかけてやろうとしないからであります。ですから優れた人材は悩み窮すること多く、高い位の人は輝かしい功績が無いのです。
 この両者の行為はどちらも誤っています。上の人に対して士官を求めたことが無いなら、上にしかるべき人物が居ないとは言えません。また下の人の中に人材を求めたことが無いなら、下にしかるべき人物が居ないのだということはできません。私は長い間この言葉をとなえてきましたが、まだ人の耳には入れようとしていません。
 もれ承りますと、閣下は不世出の才能を持ち、自分で信じるところを守って世俗に抜きん出ておられます。道徳は方正、事業は着実。進退は時勢に依らず、文武いずれにも通じておられるということであります。それこそ私の言うところの人物でありましょう。
 ところが、後進の士で閣下に見いだされて門下に召し抱えられた者がいることを耳にしておりません。それは閣下が人物を求めておられるのに未だ見つからないからでしょうか。それとも閣下の志が功績を立てることに置かれ、その人に遇っても、礼をもって召し抱えるいとまがないのでしょうか。聞こえてきてよいはずのことが久しく聞こえてきません。
 私はまだまだ才能豊かとは申せませんが、自分では普通の人より劣っていないと信じております。閣下は一体人物を求めながらまだ見つからないのでしょうか。それならば昔郭隗が燕王に「まず隗より始めよ」と言ったように、私をまず取り立ててみてください。私は今食費や召使いの給金にも困っています。閣下の一度の朝食費で事足りるのです。
 もし閣下の志が功名を立てることにあり、大事は主君に報いることに専心しており、人物に出会っても、礼をもって召し抱える暇がないとおっしゃるならもはや私の申し上げることはございません。世間のこせこせした人には話しても仕方ないことですが度量が広くすぐれた方にまでもお聞きいれられないとあらば、私の運命も窮まったということです。
 謹んで以前に書きました文章十八篇を献上いたします。もしご覧くださいますなら私の存念のどこにあるかを知っていただけましょう。愈、恐懼再拝。


貞元十八七月、韓愈三十五歳の作、中央の官である四門博士に任命されたが、出世コースからははずれ、収入も低かったのでより良い地位を求めて大官に送った文章。相手が見込み違いで後に官位をはく奪されたほどの人物であったのでかえって幸いであった。当時の就職活動の手本とされた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿