初夏を思わせる陽気に誘われて
久しぶりに美術館に出かけて来ました。
竹久夢二の作品で知られる東京・弥生美術館です。
漫画家・滝田ゆうさんの展覧会です。
開催最終日だけに大勢の人たちで賑わっていました。
その名も「昭和×東京下町セレナーデ」と題された展覧会は
懐かしい昭和の匂いがプンプンと漂っていました。
滝田ゆうさんは月間漫画誌「ガロ」で一世をせ風靡した
かつての売れっ子漫画家です。
くりくりの坊主頭に着流し姿がトレードマーク。
漫画だけでなくイラストやエッセイの世界でも多才ぶりを発揮しました。
展覧会には滝田さんが出演したお酒のCMなど
数多くのポスターなども展示してあって
誰からも愛されたその作風や人柄が大いに偲ばれました。
滝田さんの作品のベースになっているのは
自らが生まれ育った墨田区寺島町界隈〈現:墨田区東向島〉の風俗で
かつて「玉の井」と呼ばれた私娼窟地帯です。
春をひさぐ女性たちの姿に心からの共感を寄せながら
作品の中にもしばしば「やさしいお姐さんたち」として登場します。
まるで細密画を思わせる細かな線描に
愛する街への尽きせぬ「愛情」と「郷愁」があふれていました。
食い入るように絵を眺めていたおばあちゃんが
ああ、懐かしいねえ・・・
と感極まった声を上げていたのが忘れられません。
お気に入りの絵です。
滝田さんの絵は普通はセリフを書く「吹き出し」の部分にも
インスピレーションで絵を描きこむのが特徴です。
そのさりげない小さな絵を見ていると
懐かしい面影の街へタイムスリップしたような不思議な感覚を覚えました。
かつて「赤線玉の井ぬけられます」という映画がありましたが
滝田ゆうさんの絵は見ているだけで
遠い昔に瞬時に「ぬけられる」ような絵なんですねえ。
美術館の外は満開の桜でした。
今年の桜はちょっと早いなあなどと思いながら
足元を見ると・・・
もう花びらが散り始めていました。
それにしても「東京下町セレナーデ」は秀逸なタイトルです。
滝田さんの絵を見ていると
ショパンのピアノの音色が聴こえてくるようでした。