まろの陽だまりブログ

顔が強面だから
せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

心の太鼓が鳴り渡る

2017年07月01日 | 日記

誰だかご存じですか?
堂々たる文化勲章受章者です。
ハイ、私の尊敬する洋画家の中川一政さんです。
尊敬と言うより「大好きな画家」と言うべきでしょうか。
これは確か真鶴のご自宅での写真ですね。



中川さんは97歳の長寿を生きた洋画家です。
美術学校も出ず師も持たず、ほとんど独学で自らの世界を切り開きました。
大胆なデフォルメと力強い筆致で描く画風は迫力にあふれ
「絵は生きていなければならぬ」が口癖でした。
飛行機事故で亡くなった脚本家の向田邦子さんは大の中川ファンでした。
事故の直前、中川さんから念願の絵を贈られた時は大感激で
「願い続ければ夢は叶うんですねえ・・・」と大はしゃぎだった笑顔を思い出します。
以後、彼女の文庫本の装丁はすべて中川さんが担当しました。



いま中川さんの文庫本を読んでいます。
八十八歳の米寿を記念して出版された最後のエッセイ集です。
私は中川一政の芸術の本質はその文章の中にこそあると思っているのですが
実に骨太で奥深くて読み応えがある文章ですねえ。
その中の一節に「心の太鼓が鳴り渡る」という言葉があります。
中川さん独特の「感動」の表現で
素晴らしい絵画に出逢ったり優れた墨蹟を観たときは
中川さんの心の中で太鼓がゴンゴンと勇壮に鳴り渡るそうです。
単に鳴り響くのではなく豪快に鳴り渡るのです。
なかなか味のある表見ですねえ。
時には「腹の虫が大声をあげ、地団太踏んで泣き出す」
などという表現もされます。
私もかなりの「感激屋」を自負していますが
中川画伯には負けます。〈笑〉



中川さんの代表作「福浦突堤」です。
ご自宅のある真鶴にほど近い小さな漁師町の風景です。
最初にこの絵を観たときは「なんじゃコレは!」と思わず目を瞠りました。
わが「心の太鼓」がガンガンとMAXで鳴り渡りました。

ゴッホを思わせる大胆なデフォルメとあざやかな色彩。
そして、無骨で荒々しい筆致。
まるで生きて呼吸しているような絵です。
これは単なる「風景」ではなくまさしく「感動」の表現です。
爾来、中川さんは20年にも渡って岸壁に通い続けます。
描いた福浦風景は数多く、画家の生涯にわたるモチーフとなりました。
20年は途方もない年月です。
それだけ感動が持続することにただただ感動します。

最近、私の心の太鼓は
すっかり鳴りをひそめたままですが・・・〈笑〉