満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

        LEON WARE 『moon ride』  

2008-10-07 | 新規投稿

待望の新作。待望の傑作。
全曲聴き終わっても、まだ、1曲目「moon ride」の‘ムーーンラーーイ’というフレーズが耳に残っている。反復される大波のエロティックボイスの余韻が体内に残る。主旋律は思い出せない。いや、それは無いからだ。これこそソウルだ。これは通常のポップスとはやはり違う。白人のポップはイントロ、Aメロ、Bメロ、サビという構成があるが、ソウルは中心となるフレーズやリフが反復され、その周囲を歌が感情的に揺れながら語るように、しかもメロディを崩しながら、その中心にあるフレーズに絡みつくように進行する曲が多くある。マーヴィンゲイの多くの曲がそうだし、それは起承転結を場面展開ではなく、一連の流れの中で表現するソウルミュージックの神髄であると思っている。

リオンウェアが制作途中だった音源をマーヴィンゲイが‘乗っ取った’形で完成したのが『I want you』(76)だった。あのエロスと郷愁に満ちた世界はリオンによる音楽発酵の賜であり、結果的にマーヴィンの広角な音楽性を実現しただろう。リオンウェアの楽曲には大河のような太い感情の流れがあり、それは微動だにしない客観性とある種のクールネスを養うものだ。自己陶酔の裏返しの如き他者への甘えや感情の共有、受け入れを求めるような強制感が全くない事が重要な要素であろう。(私達は普段そのような自己愛過剰な音楽を嫌と言うほど多く耳にする。)リオンウェアの音楽にある‘語りの自発性’‘メロディの自然発生性’は感情レベルの相対化や昇華を無意識に遂行する志向の顕れであり、真のコミュニケーション願望と言えようか。従って、歌にもアレンジにもわざとらしさがないのは当然だ。

リオンウェアの新作『moon ride』のクール・メロウな音響に酔いしれる。
このセンス、一体、どこから来るのか。派手なアレンジを施してドラマティックに仕立てる巷のイージーソングの群れとは訳が違う。何より歌が発声の深さで装飾を不要とする究極の美を見せてくれる。シンプルで強固。それでいて極上のメロウネス。今で言う‘オーガニック’が聴覚の安らぎから来る精神の安定剤ならリオンウェアの『moon ride』は肉体的エロスを冷ましながらクールな空間へと投じた環境音楽の如きオーガニックな心地よさがある。全編を貫くミディアムテンポの‘静かな熱さ’。歌詞のエロさも含め、マーヴィンゲイ的性愛世界の継承でもあり、音楽の快楽伝道者、リオンウェア。孤高の存在だろう。

2008.10.6

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