満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

三人で描く音波-(清野拓巳:guitar宮本隆:bass木村文彦:打音奏者)Sound waves drawn by three men-終了。

2019-12-09 | 新規投稿
12/7三人で描く音波-(清野拓巳:guitar宮本隆:bass木村文彦:打音奏者)Sound waves drawn by three men-終了。清野拓己氏との初めての共演という事で秘かに期するものがあった私は、まずはサウンドチェックで自分の音つくりに最大限の注意を注いだ。演奏以前に音作りこそが自分の弱点だと常々感じており、メロディセンスも問われると直感した今日はいつもの‘アバウトさ’を封印し、自分の納得する音を確かめて臨もうとしたわけだ。結果、100%満足とはいかないが、まあまあの音で演奏できた気はする。今日のライブが終わっての満足感はここに由来する。さてライブは3人のソロをメドレーのように繋げていく事で始まった。まずは私。ソロで何回か演奏した持ち曲と抽象的な即興で約30分。いつもはコケるアルペジオにリバーブかけたシーンも何とか表現できたかなという感じ。Loopさせて上に載せるソロ的メロはやはり音質をもっと詰めてやるべきだったが、次回、もっと練習して臨む次第。続いて木村文彦氏が登場。今日も大掛かりなフルセットを用意。先述した音作りという点で木村氏は常に意識が高い。それは会場の楽器は一切、使わず、使用楽器を必ず全て持参する事にも現れる彼の特性であろう。以前、木村氏に「タムとか使えるものはライブハウスの使ったらどうですか」と訊いた時、言下に否定された事があった。‘自分の出したい音を出す’為にはあれだけの荷物を毎回、持って来る大変さを厭わないわけだ。すごいと思う。さて木村氏の演奏はエスノ色の濃いパルスビートに持ち味である様々な物体を奏でる展開でこれまで幾度となく演奏を観ている私にとってある意味、耳慣れたサウンドであったのだが、タムとスネアの音色にいつもとの違いも感じ、興味深かった。即ち、タムはより円やかに、スネアは粘着質に感じたのだ。後でスネアについて訊くといつもと変わらずという返事だったが、カーンと言う抜けの良さより、濁音のような響きが混ざっており、彼が標榜する‘打音奏者’というイメージがここに感じられる結果と私には思われた。いわゆるkit drumという形式から離れる事で自己表現の個性を追求する木村氏が既成のドラムの個々のパーツを使いながらも独自の音響を表現できる秘訣は叩き方と個々のチューニングにもある事がより明確になった演奏だった。
木村氏の余韻を残したまま、清野氏の演奏が始まる。メロディックなフレーズを重ねていくのかと思いきや、かなりアブストラクトな音響寄りのサウンドで始まる。アンビエント色もあるが音が立っており、迫ってくるようなフェイドインの応酬という感じ。そしてその分厚い音響をloopさせながらアコギに持ち替え、ハリのある音色で不思議なメロディを即興で紡いでいく。抽象性と正音階の狭間に位置するような独特のフレージングにワクワクする。しかも親しみやすいメロディから少しずつ逸脱していくかのような連続的な演奏に時間の感覚が麻痺されるような陶酔感が生じる。このあたり、弾く事の確信さが伝わり、躊躇する局面が全く感じられないのが素晴らしい。本人の中では様々な葛藤や試行錯誤があるのだろうが、傍からはいわゆるミステイクという領域が存在しないかのような演奏だ。
続いて清野氏と私のDUOは私にとっていわば試練の場でもあっただろうか。かつて、柳川芳命氏と初めてDUOが決まった時の緊張感と同じであった。つまり、私の拙さや弱さが全部出て丸裸にされてしまうであろう恐怖感にも似たものである。清野氏というエキスパートの前で対等な表現ができるのかという思いがあり、かと言って無難なアンビエンスでごまかすわけにもいかない。私はギタリスト荻野やすよし氏との幾度にわたる共演で相手のメロディを聴いて対応する訓練もそれなりにしてきたつもりなので、ここでも清野氏の演奏をとにかくよく聴いて対応し、こちらからも場面作りを提供していこうと決心した。結果、バックに回ったり、前に出たりとそれなりに演奏でき、内心、ほっとした事を記しておく。場面によってはキーの違いなども感じていたが、清野氏のフレーズはその違和を無効化するような変幻さを併せ持つもので、助けられたという気もする。
最後は3人のトリオ演奏である。リハで音を出した時の3つのパートの空気感に手応えを感じており、それは木村氏も同様だったようだ。清野氏の音抜けの良さと木村氏の打音の相性はよかったと思う。私、清野氏共にソロとDUOでは座って演奏したが、トリオではスタンディングで演奏。木村氏はリハの時と打って変わって最初から飛ばしていき、いきなりの疾走状態になるが、3つの音が混濁せず、クリアーな響きであったことが心地よい。木村氏のコールに即座にレスポンスする清野氏の力量を感じながら私は余計なエフェクト類を封印し、ベースに徹した演奏。途中、木村氏の反復するリズムパターンに同期させジャズロック的展開になる場面は個人的には好みの世界だったが、それでも瞬時にシーンが入れ替わっていくスリリングさの方が優先された。ブレイクで木村氏がホースを振り回し、普通でないセッションの醍醐味も表現。40分くらいがあっという間に過ぎた内容の濃い演奏だと感じられ、充実のイベントとなった。このライブを組んでよかったと実感し、機会あればまた再演したいと思った次第。

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